ロンダルキアへの洞窟にて
「この冒険を無事に終えられる保証はどこにもないが、無事に終わったとしたら俺は今までの立場ではいられない。ローレシアの国は武を以て尊しとなす気風だ。世界を救った勇者、という称号を手に入れてしまえばその功績から自動的に王に据えられてしまうのに間違いはないだろう。父王に比べればひよっこでしかない、この俺が王になる。それがとても恐ろしい。俺のような若輩者に国民の生活が左右されてしまうのだ。彼らにとって、それはなんという不幸だろうか。しかし更に不幸なことに、統治者が武に優れていれば彼らの生活がたとえ貧しくても、不満に思うどころか光栄に思えてしまうのが、ローレシアという国なのだ。彼らは真っ直ぐで実直で、実に愚かしい。けれども俺は彼らがいとおしくてたまらないのだ。だからこそ、俺は玉座が恐ろしい」
そこまで言うと、重い重い溜息を零した。今まで以上に重い。それはきっと今まで抱えていた鬱憤を晴らせた……ってわけではないけど、愚痴を零すことができてほっとしたのかな?って思わせるようなため息だった。彼にとってはこれだけでも、いくらかましになったのかも知れない。けど、根本的な解決にはなっていないと思う。そんな不安を抱えたままハーゴンを倒して玉座について、ずっとずっとその不安に苛まれていたらいつか心を壊してしまうよローレ。
「ローレはさ、なんていうかこう、固いよ」
「はぁ?」
「別にローレの父上が隠居したら一切口を出させないってわけじゃないでしょ?」
「勿論だ、そんな横暴はせん」
「大臣や兵士たちの進言を聞かないの?」
「まさか」
「ローレのことだから、たまには城下町に出歩いたりするんじゃない?」
「……恐らく」
「そして、僕やムーンとはこの旅が終わったらハイさようなら御機嫌ようで他人に逆戻り?」
「そんなことするか!俺たちはずっと仲間だ!」
「なら大丈夫だよ」
「ローレのことを思って、国のことを思って進言してくれる人がいっぱいいるし、君には仲間がいる。僕たちがいる。変なことをしてたら何してんだよって僕らが怒りに行くよ。それで十分じゃない?」
ローレは口を開かなかった。もういいかな?って顔を見てみれば、なんか呆気に取られた表情で、彼らしくない間抜けっぷりに思わず吹き出してしまった。眉を寄せて困ったように頬をかいたローレは、視線をさ迷わせた後、僕を見据えた。
「そうか?」
「そうだよ」
「そうか」
「うん」
その後もそうか、と繰り返すローレは納得したみたい。よかった、と僕は心から思う。彼の悩みを解決できてよかった。彼の役に立ててよかった。炎に照り返される彼の表情は穏やかで、本当によかったと僕は嬉しくなった。
作品名:ロンダルキアへの洞窟にて 作家名:ban