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相思相愛みたいなものだ

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学校から帰って家のドアを開けようとした竜ヶ峰帝人は、ガチャリと鍵を開けたつもりでノブを引き、がたがたと音を立てるばかりで開かないドアに、深いため息を零した。
今確かに鍵を入れてまわしたのだから、それで鍵がかかるということは、つまりこのドアは開いていたということになる。そんなことは一瞬で把握できたが、問題はどうして開いていたかのほうだ。今朝、ちゃんと鍵をかけたことはしっかり記憶している。
つまりそういうことだ。
「・・・ああもう」
一ヶ月くらいだろうか、彼は新宿からも池袋からも姿を消していた。大方仕事で潜っていたのだろうが、一週間ほど前からチャットにさえ姿を現さないようになって、実は少し心配していたところだ。口にしたらうざったいから言わないけど。突然居なくなったと思ったら、帰ってくるのも突然らしい。
ほんと、神出鬼没なんだから、と帝人はもう一度息を吐き、それからゆっくりと鍵を回す。
今度こそ開いたドアを開けて、そっと中を覗き込めば、決して広くはないその部屋の畳の真ん中に、転がるようにして黒い物体が・・・まあ十中八九折原臨也だけれども・・・いた。
玄関に靴はないが、相手を見ると素足だ。靴はどこへ消えたのかと思いながらも、帝人はそっと室内に入る。臨也というのは変人だから、別にここまで素足でやってきたと考えても可笑しくないような気がした。土足で室内に上がられるよりは、マシだ。
「・・・臨也さん」
寝ているのかと思って、小さな声で呼びかけると、転がっていた黒い物体は、気だるそうに仰向けになって、ぼんやりとした声が、
「みかどくん?」
と返る。さっきまで寝ていたような声だった。
「臨也さん、不法侵入って言葉知ってます?」
ことさらあきれたような声を作って言ってやる。いつものような屁理屈が返ると思ったのに、畳の上の人影は、面倒そうにただ、
「知らない」
と答えた。続けて、
「どうでもいいし」
と。
おやこれは珍しい、と帝人が目を見開くのと、畳の上で臨也が起き上がるのがほぼ同時だった。心底気だるそうなその様子にどことなく違和感を覚えて、帝人は首を傾げる。
「・・・どうか、したんですか?」
具合でも悪いのだろうかと尋ねれば、臨也はまっすぐに帝人を見返して、なんでもないよ、と無造作に答えた。まっすぐに。
ああ、これか、と帝人は思わず息を飲んだ。
臨也が自分をまっすぐに見据えるというのは、とても珍しいことだ。本人がそれに気づいているかどうかは判らないが。
帝人は臨也の、その、淀みきった人格の中で、そこだけ曇りなく澄み渡っている瞳が好きだった。好奇心の塊のように、常に何かを求めている渇望の瞳が。そんなこと本人には絶対に言ってやらないが、多分、臨也を構成するパーツの中でダントツぶっちぎりで群を抜いて好きで、もはや愛しているといってもいい。かといってその瞳の持ち主だから臨也を愛しているかと問われれば、答えはNOだけれど。
気でも狂ったかのように帝人をじっと見詰めているその視線は、普段は決して帝人に止まる事がない。帝人と話しているときでさえ、その周囲の空気だとかに横滑りして、決して自分の視線と交わることのなかったものだ。帝人は常々それを歯がゆく思っていた。
僕を見ればいいのに、と思っていたのだ。
確かに折原臨也というのは人間的に最低な、心の濁りきった男だけれども、その目がまっすぐに自分を見るのなら、その程度の濁りを許容しても良かった。だって彼の瞳には、それだけの価値がある。青年男性の瞳に対して使うべき形容詞ではないが、それでも、その瞳はみとれるほど美しいのだ。
「・・・珍しいですね」
帝人はまっすぐにその目と視線を絡めながら、そう言って一歩距離をつめた。普段、どんなに近くにいても帝人を素通りするか、上滑りするかしかないその視線が、きちんとかみ合っているなんて。
天変地異の前触れか。
そんな風に思いながらも、帝人は確かに、歓喜していた。この人は一生自分をまともに見るつもりがないんじゃないかと、半分あきらめていたから余計に。
「最後だからね」
臨也は答えた。その声は、どこか遠いところで発せられたかのように、帝人の耳をなでて消える。
帝人は、言われた言葉の意味を図りかねて、首をかしげた。最後?何が?判らないままもう一歩、近づけばその手をとられ、そのままぐいと引かれる。
「あ」
慌てて片ひざをついて、臨也の胸に倒れこむのを防いだが、そのまま背中に腕を回されて、さらに力をこめられる。
「ちょ、ちょっと」
同年代の男子の中でも、非力と言われる帝人など、あの平和島静雄と喧嘩ができる臨也の腕力に敵うはずもない。あっと言う間にぴったりと抱き込まれて、身動きが取れなくなってしまった。
どきどき。うるさいよ心臓止まればいいのに。
床に座り込んでいる臨也と、立ちひざ状態の帝人だと、ほんの少し帝人の顔のほうが高い位置にある。その顔を見上げるようにして、臨也が帝人の頭を押さえた。
近い近い近いってば!慌てたようにそう思いながらも、声は出てこない。ただ、そのまっすぐな瞳を見返し、目を逸らせない。
どきどきどきどき。もうほんと自分死ねばいいのに。こんな大げさな心臓の音、揶揄られたら一生の不覚だ。帝人は必死で勝手に上がっていく体温を否定する。だってこんなの、まるで臨也を意識しているみたいじゃないか。
違う違う断じて違う。帝人が好きなのはこの瞳だけだ。これだけは臨也を構成するパーツの中で唯一愛してやまない。だけれども、臨也に抱きとめられたとして、それで心臓が高鳴るのはおかしい、異常事態だ、ありえない。
「やっと、ちゃんと見れた」
臨也が笑う。
帝人は笑えない。
「臨也、さん。ちょっと、離して」
「あのさあ、帝人君。言ったでしょう、これで最後なんだよ」
鼻先をあわせて、臨也は瞬きさえしない。その、研ぎ澄まされた刃のような美しくも鋭い視線が、帝人に有無を言わせない。
「最後、って、何」
「俺が君をちゃんと見る、最後のチャンスなの、わかる?」
「わ、かんないですよ」
「わかって」
お願いだから。声が掠れていることを認識したら、心臓が派手に音を立てた。
どかんどかん。もう、心臓爆発しろ。
そんな音がきっと伝わっているだろうに、臨也はそれについて言及するようなことはなかった。ありがたいけど、そんなの臨也らしくなくて怖い。臨也なら、臨也ならこんな時、嫌な感じに笑ってあれれ?帝人君心臓がうるさいんじゃない?とか、イヤミの一つでも。
言う、はずなのに。
「ほんとはちゃんと見たかったよ」
臨也が言う。聞いたことがないような優しい声で。
「な、に?」
「見たかったんだ。帝人君のこと、全部、全部見たかった」
何を言うんだ。
避けていたのは臨也のほうじゃないか。帝人は近すぎる距離に硬直しながら、そんなことを思う。いつも、いつだって。見てほしかった、目を会わせてほしかった、ちゃんと帝人のことを、見ろと念じてさえいたのに。
「・・んで、今さら・・・!」
「うん、本当だよね。もっとずっと見ていたかったんだけど。文句は俺に言っていいよ、俺も自分に文句は言っておくし。・・・君の目は、思っていたより蒼いんだね、綺麗な色だ」
作品名:相思相愛みたいなものだ 作家名:夏野