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相思相愛みたいなものだ

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もう、一杯一杯で心臓の音さえ分からない。まるで全身が心臓になったみたいだ。何これ怖い、自分が分からない。
「最後、って・・・?」
唇を動かしたら、触れたような気がして思わず帝人は体をこわばらせた。やっぱり近すぎる、この距離は怖い。けれども離れたくても、手で押さえられているから動けない。
「最後なんだよ。俺が君を見るのは、これが最後」
二回も言わなくていい。
「なんで・・・?」
「・・・うん、愛してるよ」
「臨也さ、」
「愛してるから」
有無を言わせないその口調で、臨也は目を細めて笑った。こんな間近で笑わないでほしい、なんだか心の中の何かが跳ねる。
最後。なんで。どうして。そんなことを言うんだ。
「僕は」
嫌だと言いたいのだろうか、最後なんて嫌だと。今言わなきゃいけないのはそんなことじゃない気がする。
「・・・あなたの瞳、好きです」
自分の方から手を伸ばして、臨也の頬にあてた。臨也は笑う。目を開けたままで、その顔がすっと近づいた。
目を開けたまま。
視線を合わせたまま。
唇が重なって、一度離れる。小さく息を吐いたら、もう一度触れて。
「ありがとう」
もう一度。
「・・・最高だ」
臨也の姿が、帝人の視界の中でふと、薄れたような気がした。



「最高の別れの言葉だよ」






快晴の空の下、病院の屋上には涼やかな風が吹いていた。
帝人は外のまぶしさに一瞬目を細めて、音をたてて屋上へのドアが閉じると、その音に、フェンスに寄りかかっていた男が振り返る。
「・・・やあ」
おなじみの声が、思っていたよりずっと穏やかに聞こえてきて、帝人はゆっくりと顔を向けた。
「・・・くたばったんじゃなかったんですね」
「あはは、帝人君厳しいよねえ」
歩み寄った男は、全身に包帯を巻いていた。コンクリートに座り込んでいたのも、立っていられないからなのだろう。松葉杖も近くにある。
帝人は、包帯に隠されたその顔に手を伸ばす。優しく撫でるように頬をくすぐれば、臨也が驚いたように一瞬体をこわばらせ、それからふと微笑んだ。

「右目が迷惑をかけたね」

臨也の呪文めいた不思議な言葉の意味を、帝人は理解していた。
「・・・あっちが本体ならよかったのに」
切り返した言葉に、包帯だらけの男が笑う。
「あいつずるいよねえ、俺の秘密をべらべらしゃべった上に、帝人君のファーストキスまでもらってっちゃってさ」
こちらを向いたその顔に、右目はない。今は空洞で、あとで義眼を入れると新羅は言っていたけれど、今はまだ何もないのだという。顔のパーツで見えているのは、左目と口だけだった。
「僕を見たかったって、言ってましたよ、あなたの右目」
「見たかったよ。そりゃあね、当たり前でしょう。でも仕方がないじゃない、見たら心臓がうるさいしさ、すごく緊張するんだよ、わかる?」
「・・・嘘つき」
「嘘じゃないって」
帝人はそっと包帯の上から、右目があった場所へ唇を落とす。最後に会いに来てくれたのは、右目なんだよと臨也は言った。あの後すぐ、病院から電話があって、『右目が行っただろう?』と告げてきたとき、帝人は正しい言葉を選べたと、そんなことにほっとしたものだ。
臨也がどうしてこんな大けがを負っているのか、右目を失うような事態になったのか、そんなことはしらない。けれども、何かが起こってもう死ぬしかなかった右目が、最後に帝人に会いたいと願ったのだというなら、それは相思相愛というやつだ。
「僕、あなたの瞳は好きなんですよね」
「瞳だけなの?」
「愛してますよ。・・・あなたの瞳」
「帝人君ってば」
臨也は笑う。くすくすと、あの時の右目のように。
「・・・目だって俺の一部なんだけどなあ」
包帯だらけの腕を伸ばして、臨也がすがるように帝人を抱き寄せた。けが人を悪化させるのは本意ではないので、仕方がないなとため息をついて、寄せられるままにする。
「俺の右目への嫉妬を、どうにかしてほしいんだけど」
引き寄せられるまま、顔を近づける。
仕方のない人ですねとつぶやいて、帝人は目を閉じた。
ようやく目を閉じてキスができるなあ、なんて、どうでもいいことを考えながら。
だってそうでもしないと。
心臓が。



どくんどくんどくん。
ああもうだから、心臓もう爆発していいよ。っていうか爆発しろ!
作品名:相思相愛みたいなものだ 作家名:夏野