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家族だから

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新学期が始まる少し前、土井半助は部屋の一角に山積みになった荷物を掻き分け、必要そうなものを取り出していた。
煤けた板張りで薄暗いこの家は貧乏長屋よりほんの少しだけマシな家、というぐらいだったが、荷物だけはたくさんある。
今年の夏は半助もきり丸も、そして利吉がかなり長居した所為だ。
来年の夏休みは半助ときり丸が課外実習ということであまり帰れないかも知れないから、というのが理由だったのだが、利吉まで一緒じゃなくても良かったような。

(まったく、利吉君には近所のオバチャンたちが競うように差し入れしてくれるんだから。おかげで今年の夏の家計はかなりらくだったよ……)
涼しげな美貌を誇る山田利吉は、きり丸とは違う意味で周辺のおばさま達にモテモテである。
(まあオバチャンだけじゃなくて………………やめよう)
思考にきりをつけるため、よっこいせと声をかけて謎の荷物(おそらく利吉の忍道具)を持ち上げてどけると、其の奥にあったものを引っ張り出す。
「よし、発見」
ぱすぱすと表に積もっていた埃を落とす。
それは五年生の忍たまの書だった。
学園に就任してからずっと紐解いていなかったので、もう十年ぐらい放置したっきりだったのだ。


「土井先生ー帰りましたー!」
背後から響いた声に半助が振り返ると、にぃと笑ってブイサインをしたきり丸が立っていた。
いつもと変わらない其の様子に、半助は苦笑する。
「きり丸、三日も留守にするなんて、いくら合戦場のバイトでも長すぎやしないか?」
そう言いながらお茶を淹れて渡すと、床に胡坐をかいたきり丸はにへらと笑う。
「だって待遇いいっすもん」
「授業料は払えそうか?」

バイトで次の学期の授業料を払うきり丸は、半助も山田先生も、学園長も何度か援助を申し出ている。
半分で構わないとか、出世払いでいいとか。
けれどきり丸はそれだけは自分で払いたいと何度も言った。
流石に生活費は半助が出しているが。

「はい、今年の分はもうバッチリっす」
「え?」
「あと四年の秋からは武器も自前じゃないスか、その分もそろえて」
「きり丸」
がさがさと風呂敷の中を漁っていたきり丸は、半助の低い声に顔を上げる。
「お前、何のバイトをしてきた」
「合戦場で」

「……忍の仕事をしてきたのか」


今は荒れている世の中である。
忍術学園の四年生にもなれば、簡単な任務で動くことは何度かあった。
それはけして前衛に出るものではないけれど、一般人には出来ないようなことだ。

だが合戦場に直接出るような仕事は話が違う。
例えば情報の伝達、例えばその漏洩を促す、例えば、おく深くまで忍び込む暗殺。
普通の兵のように武器を持って戦うことは少なかれど、とても重要で――危険な任務。


半助に問い詰められたきり丸は、こくんと首を縦に振った。
「昔からいるんで、勝手はわかってたし、給料いいし……」
「きり丸……お前……」
右の拳を握った半助が、きり丸の襟首をつかんでぐいっと持ち上げる。
殴られる、と思ったけどきり丸は真っ直ぐ半助を見た。
「心配かけてごめんなさい、先生」
「そんな事を言ってるんじゃない!!」
ごめんなさい、と声に出さず呟いても、きり丸は視線を逸らさない。


「待ってください」
きり丸を持ち上げている半助の手に、別の手が添えられる。
「利吉君……君は黙っ」
「仕事を頼んだのは私です!」
「利吉さ……」
かすれた声で呟いたきり丸を下ろして、半助は止めに入った利吉の手を振り払う。
「……利吉君、それなら私は君も殴るよ。きり丸はまだ四年生だ、こんな危ない仕事をさせて、万が一があったらどうするんだ」
「もちろん彼の実力から見て安全なところに」
「きり丸はまだ忍たまだ! どうして戦場に出した!!」

「土井先生」
叫んだ半助の肩をつかんで、利吉は唇を噛む。
「あなたに相談しなかったのは申しわけなかったと思っています」
「そういう問題じゃない!」
「きり丸はもう四年生なんですよ」
「まだ四年生だ!」

先生、と利吉は抑えた声で繰り返した。

「きり丸君はあなたの教え子ですよ」
「だから、」
「彼の強さは、あなたが一番わかっているはずです。このご時勢です、もう四年生なら戦場に出されてもおかしくない」
そんな事わかっている。
先学期の終わりに学園長が教員を全員集めてその話もした。
元々六年生は合戦場に出たりしていたのだ、四年生以上の学年が出ることになっても何もおかしくはない。

けれど、学園の命令でもなく、そんなことを。
そんなことをさせたくなかったのだ。

「半助さん!」
ピシャリと鋭い声と共に、肩を強く捕まれた。

「あなたは責任を持ってきり丸を送り出す役目のはずです! 彼を案じてどうするんですか!!」
「案じるに決まってるだろう、家族なんだから!」
叫び返して、半助は膝から崩れ落ちる。
それを慌てて抱きとめた利吉の腕の中で、呟いた。


「私は、金のためにきり丸に……そんな事をさせたくなかったんだ」
「せ、先生、違う」
項垂れた半助に、きり丸は駆け寄り、目に溜まった涙を振り払うように首をぶんぶん左右に振った。
「ち、違うんだ。俺はゼニのためじゃなくて、だって、先生も利吉さんも、一流の忍者で」
震える唇に、涙が伝う。
「き、きっと合戦場に出ることもあるって、思って。その時は、ちゃんとできないと、は組の皆や、先生達の命も、危険だか、ら……、わかって、たんだけど、でも、ちょっと、だけ」

ちょっとだけで、いいから


おいつきたっかったんだ。



「い、つも先生や利吉さんに、守ってもらってばっか、で」
声を出せない半助の前で、きり丸はぬぐってもぬぐってもぽたぽた落ちてくる涙を必死に拭う。
「あ、赤の他人なのに、そんなこともうしわけ、なくて、せ、せめて守られなくても、へーきな、ぐらいは、って」
「きり丸……」
声を詰まらせて、半助はただ手を伸ばした。
指先が子供の肩に触れたので、そのまま引き寄せる。

「きり丸、バカだなお前は」
「お、おれ、っく」
「私は守りたいんだ、先生なんだから、お前達を皆守りたい。特にお前はな、きり丸」
「な、なんで」
「私はお前の家族だろう。違うのかい」
「お、おれ……せんせの、かぞくで、いいの……?」

震える子供をぎゅうっと抱きしめて。
半助はあたりまえだろう、と笑った。
「だから何をしてても、ちゃんと守ろうって思ってる」
声に出して泣き出したきり丸を、半助はずっとずっと、抱きしめていた。






***
利土井のはずが、オチが完全にきり丸にとられちゃった。


次に利吉の逆襲。

作品名:家族だから 作家名:亜沙木