Home Sweet Home
「まま、おそいねえ」
ままのお気に入りのゆにおんじゃっくの柄の枕をだっこして、ちょっとさびしそうな声であめりかが言うから、ぼくもさびしくなってくる。
キッチンからはおいしそうなにおい。ぼくはクマさんをだっこしたまま、てとてと、とキッチンに向かった。
「ぱぱー…」
じゅうっ、とお肉の焼けるおとがする。ぱぱはかみのけを頭の後ろでまとめてて、レストランの人がするようなえぷろんをして、ちょっとかっこいい。
「ん、どしたカナダ。寂しくなっちゃったか?」
ぼくはちょっとほっとして、左手で、きゅ、とぱぱのえぷろんのはじっこをにぎってみた。ぼくはあめりかみたいにさびしかったぞー、なんて言えないのに、ぱぱはちゃんとわかってくれるから、すき。
「おてつだい、する?」
そういうとぱぱは、んー…と考えこむしぐさをしてから、
「じゃあ、お皿とスプーンとフォーク並べてくれるかな。スプーンはスープのと、お料理用と二つ。できる?」
「うんっ」
やったー、おてつだいだー。ぼくはうれしくなって、にこっとわらって、言われたものを取りにいく。あ、そうだ、クマさんはちょっとおいすで待っててね。クマさんのぶんも、おもちゃのお皿、ならべてあげよう。
かちゃかちゃ、白いお皿はぼくのと、あめりかのと、ぱぱとまま、で4まい。スプーンは二つって言ってたから、平べったいのと、まるいの。フォークは、ぱぱとままは大人のおっきいやつ。ぼくとあめりかのはちょっとちいさいの。
うん、なかなかきれいにならべられたなぁ。
と、そこで、ぼくはちょっとしたことをおもいついた。
「ぱぱ、ぼくちょっと、おそとにいってくる」
「えぇ!?もうすぐご飯だぞ?」
「すぐかえってくるからぁ」
そう言ってぼくはもうドアのそとにいた。中からぱぱが、服汚すなよー、って言ってるのがきこえる。はあい、ってちょっと大きい声でおへんじして、おもいついたものをさがしにいく。
* * *
「うあー…」
もう少しで仕事が終わる。俺は思わずぐーっと伸びをしていた。疲れた、マジで疲れた。なんだってまた今日はこんなに書類の山なんだ。
でもそれもあと少し。真下を指している時計の長針が12を指す頃には終わっているだろう。
そうしたら、家に帰れる。
アメリカとカナダが待ってる。不本意ながらあいつの作った飯も待っている(もちろん、美味しいのだから仕方ないけど)。
そう考えたら自然と笑みがこぼれて、もう少し頑張ってやろうじゃねえかという気分になった。不思議なものだ。
予定通り7時きっかりには仕事を片付けて、上司にまた他の仕事を押しつけられる前に俺はさっさと執務室を後にした。
家、だなんて、不思議な感覚だ。自分たち国が家と言えばその国の領地や国民や、まあそういったものを指すのが普通だけれど、今だけは違うのだ。
まるで普通の人間のように、家庭という感覚を持てるとは思っていなかった。それがもちろん有限であることは知っている。だけど少しぐらい、この奇妙な家族ごっこを楽しんだところでばちは当たらないだろう。
緩やかな坂の下、小さな空き地で動く影を見つける。
「…?」
近づいてみると、なんともよく見知った小さな身体で。
「…カナダ?お前何やってんだ?」
小さな影は俺の声にびくっとして振り返る。そして安堵と困惑の表情でべそをかきはじめてしまった。
「ふぇ…ままぁ…」
「あーよしよし…怒んないから」
わしゃわしゃ、と頭を撫でて抱き上げてやると、その小さな手の中に握られたものに気づいた。
「…花?」
言うと、カナダはこくん。とうなずいて、
「てーぶるにかざろうと思ったの、ままのとあめりかのと、ぼくのはみつかったの、でもぱぱのがみつからないよう」
そう言ってふえー、と泣き出す。よく見れば手の中の花は、それぞれ違う種類のが3本。
カナダの心遣いに俺はちょっと胸が痛くなるくらい嬉しくなった。優しい子なのだ。自分を犠牲にしてでもみんなに優しくしたくて、時々はこんな風に自分が傷ついてしまうこともあるのだけれど。
「じゃ、一緒に探そうか、パパの」
そう言ってやると、涙を浮かべたままふにゃっと笑った。
* * *
「もー、かなだもおそいっ」
ばすっ。ぼくはむかっとしてゆかにまくらを投げつけた。
「こらアメリカ、八つ当たりしちゃダメだろ?」
キッチンからぱぱの声がする。かちゃかちゃって音がするから、きっともうすぐごはんだ。
「ねえ、ぱぱー」
「ん?なんだ?」
ぼくはソファのせもたれに乗っかるようにしてぱぱに聞くんだ。
「なんでままとけっこんしようと思ったの?」
ぱぱはちょっとびっくりしたかおをした。ぼくは『してやったり』ってかんじになる。『してやったり』ってこないだままが言ってたんだぞ。ぱぱがちょっとやられてるときって『してやったり』なんだって。
だけどそれはぱぱにはあんまり伝わってなかったみたいだ。ぱぱはすぐふっとよゆうのえがおになる。あ、ちょっとくやしいぞ。
「アメリカもそんなこと聞く年頃になったのかぁ」
お父さん嬉しいなー。なんて、にこにこしてる。
「ふらんす、まだぼくがきいたことにこたえてくれてないぞ」
「ああ、なんでイギリスと結婚?」
うーん。と5秒ぐらい考えて、
「正確には結婚じゃないんだけどね」
となんだかよくわからないことを言った。
「ぜんぜんわかんないぞ」
「うん、わかんないだろうなぁ」
わかんない。じゃあなんでなかよくしたりいっしょにくらしたりちゅーしたりハグしたりするんだ?あいさつなら一回だけだけど、ふらんすといぎりすはいっぱいしてるじゃないか。
って言ったら、ぱぱはいつものによによした笑顔になった。
「そうだね、してるね」
「なんで?」
って言ったら、こんどはぱぱはすぐこたえてくれた。
「イギリスを愛してるからだよ」
によによしながら、でもとってもしあわせそうな顔で。
* * *
「なんでぱぱはままとけっこんしようとおもったの?」
うーん参ったな。子供は時に鋭くて困る。だいたい結婚て言っていいのかな。まあパパとかママとか呼ばせてるけど。だってその方が家族ごっこに気分が出ると思ったからね。
でも思った以上にこのごっこ遊びが楽しくて、なんだかいつまでもこのままでいたいなあ、なんて思ってることも否めない。
「じゃあなんで、ぱぱはままにいっぱいちゅーしたりハグしたりするの?」
ああ、それなら簡単だ。そんなこともうとっくに答えは出てる。
自分の顔が相当だらしなく緩んでるなあ、と思いながら満面の笑顔でアメリカに言う。
「イギリスを愛してるからだよ」
その時、玄関のドアがガチャ、と開いた。
あら、ナイスタイミング。ちょうど話も料理の盛りつけも済んだところだった。
俺ははーいと言いながら玄関へ向かう。後ろからアメリカが走ってくる。おかえりー。ただいまー。
「まま、おそいぞ!」
「あれ、カナダ拾ってきてくれたの」
「たまたまそこの空き地に居たんでな」
「ぱぱ、はいこれ」
ままのお気に入りのゆにおんじゃっくの柄の枕をだっこして、ちょっとさびしそうな声であめりかが言うから、ぼくもさびしくなってくる。
キッチンからはおいしそうなにおい。ぼくはクマさんをだっこしたまま、てとてと、とキッチンに向かった。
「ぱぱー…」
じゅうっ、とお肉の焼けるおとがする。ぱぱはかみのけを頭の後ろでまとめてて、レストランの人がするようなえぷろんをして、ちょっとかっこいい。
「ん、どしたカナダ。寂しくなっちゃったか?」
ぼくはちょっとほっとして、左手で、きゅ、とぱぱのえぷろんのはじっこをにぎってみた。ぼくはあめりかみたいにさびしかったぞー、なんて言えないのに、ぱぱはちゃんとわかってくれるから、すき。
「おてつだい、する?」
そういうとぱぱは、んー…と考えこむしぐさをしてから、
「じゃあ、お皿とスプーンとフォーク並べてくれるかな。スプーンはスープのと、お料理用と二つ。できる?」
「うんっ」
やったー、おてつだいだー。ぼくはうれしくなって、にこっとわらって、言われたものを取りにいく。あ、そうだ、クマさんはちょっとおいすで待っててね。クマさんのぶんも、おもちゃのお皿、ならべてあげよう。
かちゃかちゃ、白いお皿はぼくのと、あめりかのと、ぱぱとまま、で4まい。スプーンは二つって言ってたから、平べったいのと、まるいの。フォークは、ぱぱとままは大人のおっきいやつ。ぼくとあめりかのはちょっとちいさいの。
うん、なかなかきれいにならべられたなぁ。
と、そこで、ぼくはちょっとしたことをおもいついた。
「ぱぱ、ぼくちょっと、おそとにいってくる」
「えぇ!?もうすぐご飯だぞ?」
「すぐかえってくるからぁ」
そう言ってぼくはもうドアのそとにいた。中からぱぱが、服汚すなよー、って言ってるのがきこえる。はあい、ってちょっと大きい声でおへんじして、おもいついたものをさがしにいく。
* * *
「うあー…」
もう少しで仕事が終わる。俺は思わずぐーっと伸びをしていた。疲れた、マジで疲れた。なんだってまた今日はこんなに書類の山なんだ。
でもそれもあと少し。真下を指している時計の長針が12を指す頃には終わっているだろう。
そうしたら、家に帰れる。
アメリカとカナダが待ってる。不本意ながらあいつの作った飯も待っている(もちろん、美味しいのだから仕方ないけど)。
そう考えたら自然と笑みがこぼれて、もう少し頑張ってやろうじゃねえかという気分になった。不思議なものだ。
予定通り7時きっかりには仕事を片付けて、上司にまた他の仕事を押しつけられる前に俺はさっさと執務室を後にした。
家、だなんて、不思議な感覚だ。自分たち国が家と言えばその国の領地や国民や、まあそういったものを指すのが普通だけれど、今だけは違うのだ。
まるで普通の人間のように、家庭という感覚を持てるとは思っていなかった。それがもちろん有限であることは知っている。だけど少しぐらい、この奇妙な家族ごっこを楽しんだところでばちは当たらないだろう。
緩やかな坂の下、小さな空き地で動く影を見つける。
「…?」
近づいてみると、なんともよく見知った小さな身体で。
「…カナダ?お前何やってんだ?」
小さな影は俺の声にびくっとして振り返る。そして安堵と困惑の表情でべそをかきはじめてしまった。
「ふぇ…ままぁ…」
「あーよしよし…怒んないから」
わしゃわしゃ、と頭を撫でて抱き上げてやると、その小さな手の中に握られたものに気づいた。
「…花?」
言うと、カナダはこくん。とうなずいて、
「てーぶるにかざろうと思ったの、ままのとあめりかのと、ぼくのはみつかったの、でもぱぱのがみつからないよう」
そう言ってふえー、と泣き出す。よく見れば手の中の花は、それぞれ違う種類のが3本。
カナダの心遣いに俺はちょっと胸が痛くなるくらい嬉しくなった。優しい子なのだ。自分を犠牲にしてでもみんなに優しくしたくて、時々はこんな風に自分が傷ついてしまうこともあるのだけれど。
「じゃ、一緒に探そうか、パパの」
そう言ってやると、涙を浮かべたままふにゃっと笑った。
* * *
「もー、かなだもおそいっ」
ばすっ。ぼくはむかっとしてゆかにまくらを投げつけた。
「こらアメリカ、八つ当たりしちゃダメだろ?」
キッチンからぱぱの声がする。かちゃかちゃって音がするから、きっともうすぐごはんだ。
「ねえ、ぱぱー」
「ん?なんだ?」
ぼくはソファのせもたれに乗っかるようにしてぱぱに聞くんだ。
「なんでままとけっこんしようと思ったの?」
ぱぱはちょっとびっくりしたかおをした。ぼくは『してやったり』ってかんじになる。『してやったり』ってこないだままが言ってたんだぞ。ぱぱがちょっとやられてるときって『してやったり』なんだって。
だけどそれはぱぱにはあんまり伝わってなかったみたいだ。ぱぱはすぐふっとよゆうのえがおになる。あ、ちょっとくやしいぞ。
「アメリカもそんなこと聞く年頃になったのかぁ」
お父さん嬉しいなー。なんて、にこにこしてる。
「ふらんす、まだぼくがきいたことにこたえてくれてないぞ」
「ああ、なんでイギリスと結婚?」
うーん。と5秒ぐらい考えて、
「正確には結婚じゃないんだけどね」
となんだかよくわからないことを言った。
「ぜんぜんわかんないぞ」
「うん、わかんないだろうなぁ」
わかんない。じゃあなんでなかよくしたりいっしょにくらしたりちゅーしたりハグしたりするんだ?あいさつなら一回だけだけど、ふらんすといぎりすはいっぱいしてるじゃないか。
って言ったら、ぱぱはいつものによによした笑顔になった。
「そうだね、してるね」
「なんで?」
って言ったら、こんどはぱぱはすぐこたえてくれた。
「イギリスを愛してるからだよ」
によによしながら、でもとってもしあわせそうな顔で。
* * *
「なんでぱぱはままとけっこんしようとおもったの?」
うーん参ったな。子供は時に鋭くて困る。だいたい結婚て言っていいのかな。まあパパとかママとか呼ばせてるけど。だってその方が家族ごっこに気分が出ると思ったからね。
でも思った以上にこのごっこ遊びが楽しくて、なんだかいつまでもこのままでいたいなあ、なんて思ってることも否めない。
「じゃあなんで、ぱぱはままにいっぱいちゅーしたりハグしたりするの?」
ああ、それなら簡単だ。そんなこともうとっくに答えは出てる。
自分の顔が相当だらしなく緩んでるなあ、と思いながら満面の笑顔でアメリカに言う。
「イギリスを愛してるからだよ」
その時、玄関のドアがガチャ、と開いた。
あら、ナイスタイミング。ちょうど話も料理の盛りつけも済んだところだった。
俺ははーいと言いながら玄関へ向かう。後ろからアメリカが走ってくる。おかえりー。ただいまー。
「まま、おそいぞ!」
「あれ、カナダ拾ってきてくれたの」
「たまたまそこの空き地に居たんでな」
「ぱぱ、はいこれ」
作品名:Home Sweet Home 作家名:統華@ついった