ハミングバード
「おい、遊戯! かー、やっと見付けたぜ!」
「城之内くん! …ごめん。ちょっとぼうっとしてて」
「・・・ったく、いきなりいなくなってるから焦ったぜ~…ま、いいけどよ」
皆は? との遊戯の問いに、鳥居の下で待ってる、と短く答えが返る。
いつもよりぶっきらぼうな感じになるのは心配をかけてしまったからだ。並んで歩きながら、もう一度小さくゴメン、と謝れば、もういいって、と苦笑で返された。
「・・・城之内くん、それ何?」
うつむき加減の視線に引っ掛かった見慣れない袋。先程…はぐれる時までは持っていなかったはずだ。
「これか? …なんだっけ。ビー玉・・・じゃなくてビードロ?」
何だか自信なさげな響きだが、その物の名前には聞き覚えがあった。
「ガラスの?」
「おう。・・・御伽のヤツが女の子はこういうのが好きだから、静香に買ってけって」
・・・なるほど。
色々自然に気を遣う、女の子に優しい彼らしい。
・・・たぶん、何かお土産になりそうなものを探して、夜店をぐるぐるしていた城之内への手助けも兼ねて、かもしれないけれど。その辺、スマートな御伽は、きっと笑ってはぐらかしてくれるだろうけど。
城之内が見せてくれたビードロは、とても柔らかい色をしていた。
「・・・この休みが終わったら、さ」
「うん」
彼らしくない、小さな呟きは、隣を歩く自分だけにしか聞こえなかっただろう。
答える、自分の声も、城之内にしか聞こえなかっただろう。
千年パズルは沈黙している。
今は、彼はきっと聞いてはいない。
「行くんだろ」
「・・・うん」
オレもつれてけよ。
そう呟いた城之内の声は少し掠れていた。
あとはもう頷く事しか出来なくて、遊戯はただゆっくりと俯いた。
チリン
あの時夜店で買った、金魚が泳ぐガラスの風鈴は、今も部屋の窓辺で透明な音を風に乗せている。