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みとなんこ@紺
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ハミングバード

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5.






キレイだな、と思っただけのつもりだったのに。
「――――あ、あれ?」
気がついたら誰もいなくなっていた。
立ち止まってしまった遊戯に皆気付かなかったらしい。
そして遊戯自身も、自分が立ち止まったのだ、と言う事に気付かなかった。

辺りはもうすっかり日も落ちて、夕闇が去り、より濃い夜の気配が忍び寄ってきている。
それにつれ、祭りの雰囲気も盛り上がってきた。忙しなく動き回る、人・人・人――――。
『・・・疲れたか?』
「・・・ちょっと、人に酔っちゃったみたい」
ふ、と一息ついて、遊戯は夜店の間を抜けて、道から外れた切り株に腰を下ろした。
向こうからは見難いかもしれないが、こちらからは道のあちこちを見渡せる。こんな場所では下手に動き回ると余計に落ち合う可能性が落ちる。動かない方が賢明だ。そのうち誰かが気付いて、きっと探しに来てくれるだろう。
『何を見てたんだ?』
そっと傍らに寄り添ってくれる気配を感じる。
一度視線を巡らせて、先程の夜店のあった方を見遣ると、遊戯は今度ははぐらかすのは止めて、小さく笑った。
「小さい頃ね、一度何処かの町の大きなお祭りに連れて行ってもらった事があるんだけど」
初めて見るものとか、ゲームとかに夢中になっちゃって、じぃちゃんたちとはぐれた事があった。そう、今みたいに。
「その時も同じもので引っ掛かったなぁ、って」
ほら、あれだよ。
と、遊戯が指し示したのは金魚すくい。


青い平たい水槽の中を、色とりどりの赤い小さな金魚が泳ぐ。


あの頃はその小さな赤い小さな魚がどうしても欲しくて、
「待ってる間に持ってたお小遣いでやっちゃったんだよね、金魚すくい」
青い水槽の中を泳ぐその赤が、とても綺麗なものに見えたから。
本当は金魚だけは貰っちゃ駄目、って言われてたんだけど。どうしても欲しくなった。
絶対大事にして、宝物にしようと思ったのに。
「その時はすぐママたちに見付けて貰ったんだけど、ちゃっかり金魚は貰って帰ってきちゃって」
わかるかなー、あの子供が持ってるみたいな三角のビニールに水が入ってるやつ。と道行く子供を指差した。
「・・・散々駄々捏ねて持って帰ってきたんだけどね。…すぐに死んじゃったんだ、その金魚」
すっごいショックで、わーわー泣いたよ。
庭にお墓もつくってあげた。
何で仲間達から離して、それまで住んでた水から離して連れて帰って来ちゃったんだろう、って思った。
「――――でもね」

光の当たる水の中で泳ぐ、その赤色が、本当に綺麗で。



「・・・もう一人のボク?」
する、と離れていく瞳の赤を、遊戯は呆然と見送った。
触れ合った感触は勿論残るはずもなかったけれど、何となく。
何となく熱を移された気がして、思わず口元を手で覆う。
彼は、今、何を――――。

(う、わ・・・!)

俯く前に見てしまった彼の表情は逆光でよく判らなかったけれど、光に象られた瞳の色は、いつか何処かで見た――――赤。

途端また心臓がはねた。
うわ。
どうしよう。自分は一体どんな顔をしたんだろう。
そんなに、何か慰められるようなカオでもしていたんだろうか。

『相棒』
「う…ん」



『・・・金魚は持って帰れないが、あれならどうだ?』




作品名:ハミングバード 作家名:みとなんこ@紺