無限ループ
「ねぇ、シズちゃん」
「なんだ?」
「仕事はいいや。今日は休もう。だからさ、どっか行こうよ」
「…俺とか?」
「うん」
以前の俺達では、死んでも考えられなかった事。
「別に、構わねぇけど…」
それが、簡単に現実に変わっていく。
初めは、それこそ面白かった。なんでも思い通りに動かせるシズちゃん。俺だけを見る、険悪に染まっていない瞳。そんな彼を見るのが嬉しい自分に気付いた時、俺は自分が抱いていた本当の気持ちを知った。
「…ねぇ、キスしていい?」
「ああ。……っ?いや、何でだよ?!」
「なんとなく。したかったから。じゃあ、ほら!助けてあげたお礼。特別にキス一回でチャラにするからさぁ」
「嫌だ。殴るぞ手前」
「いいよ。シズちゃんは命の恩人を殴り飛ばすような人だって思うから」
「…………………キス以外だったら、いい」
「シズちゃんのケチー」
「っせぇ。ほら、どっか行くんだろ」
簡単に俺の手を取る君。
ねぇ、その体温に泣きそうになる馬鹿な俺が居る事に気付いているかい?
心の底で求めていた存在。
手に入った君が、君じゃないなんて。
「…ねぇ、シズちゃん。どっか行こう」
「? だから、そう言ってるだろ」
「ちょっと違うんだけど…。まぁ、いいよ。ああ、これもしかしてデートかな」
「っ…!」
握りしめられる手が痛い。
でも、痛い方が丁度良い。夢でも、なんでもない現実だと知る事が出来るから。
今のシズちゃんは、俺の盾であり、切り札であり、オモチャであり、恋人でもある。
思いつく限り、どんな事も試してきた。彼が嫌がるだろう事、思いつく限り全てを試した。
けれど、シズちゃんは元には戻らない。
どんなに俺を愛しても、どんなに俺を憎んでも、全て朝になれば忘れてしまう。
ただ、俺にだけそれらの記憶は確実に刻まれて。
不公平だ。世の中は初めから公平になんて出来ていないけれど、これほどの不公平も中々無いだろう。