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I do not hand it to only you

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すると、二人の視線と、向かいに居たその人――

耀が、丁度こちらを振り向いていた。
あまりのタイミングの良さに耀も驚いていたが、すぐに柔らかく微笑んだ。

そして――


香港島は、イギリスから中国に返還された。
両国首脳は笑顔で握手を交わし、式典は終始和やかなムードであったという。


式典が終わった後、アーサーは香と共に耀の元を尋ねた。
耀は外を眺めながら、自国の茶を飲んでいた。

「耀!」
「うん?あへん……と」

振り向いた耀は、香の姿を認めて動きを止めた。
きっと、再会の感動に打ち震えているのだろう、とアーサーは思った。
席を立つと、嬉しそうに耀はその名を呼んだ。

「……香……!」

一気に走り寄って、香に抱きつく耀。
ぎゅうぎゅうと喜びを最大限に表現する彼の背は、香より小さかった。
その事には、見ているアーサーより抱きつかれている香の方が驚いているだろう。

「香ー!よく帰ってきたあるなぁー!」
「先生……。為上(ただいま)」
「ん、回来(おかえり)!」

ひとしきり香を撫でると、耀はアーサーに向き直った。
琥珀の瞳に見つめられ、アーサーは思わずドキリとする。

「あー……。あ、アーサー」
「ん?おぉ……」
「しぇ、謝謝……香を無事に帰してくれて」
「礼なんていい。元はといえば、こうなったのは俺の所為なんだぜ。それより、俺の方こそ……Thank you」

疑問を含んだ目で、耀はアーサーを見る。
それだけで言葉の意味を尋ねられたのだと分かってしまうことに内心苦笑いしながら、アーサーは答えた。

「その、こうやって普通に接してくれること……だよ」

なんだか恥ずかしくなって、アーサーは僅かに赤面してしまう。
少し驚いた顔をしたあと、耀はニコッと笑って、言葉を返した。

「それこそ礼には及ばんあるよ。我だって、いつまでも卑屈になってる訳にはいかねーあるからな。だから」

す、と手が差し出される。
突然のことにアーサーが戸惑っていると、耀は再び微笑んだ。

「改めて宜しくって事で。握手しとくあるね」
「耀……。あぁ、宜しくな」

固く握手を交わして、軽く話をした後、三人は解散することになった。
その帰り際、香は部屋を出て行くアーサーに小声で呟いた。


「今まで世話になったけど……先生は、あんたにだけは渡さないから」
「……な……?」


退室したアーサーは、握手を交わした右手を見つめながら、香に言われた言葉を復唱してみた。

「あんたには渡さない――か」

あの戦いの時から、俺の気持ちは明らかだった。
いわずと香も気付いていただろう……そして。
ヤツもまた、耀を想っているのだ。
長い間の分断が、思い出を昇華し思慕にでも至ったのだろうか。

「よく言うぜ、一都市風情がよ……!」

右手を拳に握り、満足そうにアーサーは口角を吊り上げ、歩き出した。





一難去って、また一難。
今度は舞台を変えて。





fin.