そらにはしる
そらにはしる
夜中に胸が苦しくなる圧力を感じ冷や汗とともに目が覚めた。
「シャア…。」
戦場には殺気が満ち、宇宙には思惑が走る。
「はあ〜」ため息しか出ない。
しばらく基地から出ていない。
見張りが増え、邪魔も増えて身動きが取り図らい。
つい2週間ほど前に狙撃されたから。
怪我してないんだから良いじゃないかと言ったが聞いちゃくれない。
なんかいい加減腹立ってきたな、命狙われるのは初めてじゃないけど、俺を殺して戦況がどうにかなると思うのは安直すぎるだろうに。
大体まだ始まってないだろう?それとも始めたのか?
なんにしても人を何だと思っているのやら。
軍も軍だ、何かと言うとすぐ人を閉じ込めるし。じゃなきゃ、客寄せパンダの囮だ。
引っかかる方も問題ありだな。今回はどっちだ。
囮なら囮で少し外に出してくれ。
何か本気で腹立ってきたぞ。焦っているのかな…この間のアレは多分やつが新型試していたんだろうな…。
もともとNT用のMSはあちらのほうが本家だし、バリエーションも豊富だ。1機分けてほしいくらいだ。
それにしても、狙撃してきたのはあちらの陣営だと思ったんだけど、軍の中には俺がいなくなれば、やつが何もしてこないと本気!で信じているのがいるから、リークするのがなんぼでもいるだろうが、やつが今更俺を暗殺したがるとは思えない。
「ほんと今更だよな…。」
さて、戦術はともかく戦略は苦手なんだよな、そんなのは士官学校出の連中がやればいいのであって、こちとら学校もまともに出てないんだから…。
「あ そうか そうだよな…。」ふふふ…。
笑いを浮かべたまま、おもむろにパソコンに向かった。
2週間分の仕事がたまっているし、ラー・カイラムへの転属は決まっていたので強引に動いた。
護衛をつけることが条件だ。つける気は無いけど。
一人なら狙撃ぐらいかわせるし、大型火器でこられりゃ護衛なんていても無駄だ。
部屋に荷物を置いてから、メインブリッジに出頭する。
「アムロ・レイ 着任いたしました。」
「ご苦労」
「艦長 遅くなってすまない。」
「いや その分メンテと補給ができたからな。ところで怪我はないようだな。」
「まあ銃で狙われたぐらいなら、避けるの簡単だし。ミサイルとか手榴弾だとやばいけど。」にっこり。
「普通簡単に避けられんだろうが…。」
「ん〜殺気が走るからどの方向からどのくらいの距離か分かるんで、避けるくらいならどうにか、間に合えばこちらから撃つし。今まで何回かあったんで慣れちゃって。多分相手はその情報を知らなかったようだね。若いんじゃないの?」
「そんなこと慣れていてもなあ…。」
「まあまあ。それより後で相談があるんだけど、良いかな。」
「今でも良いが?」
「ちょっと資料そろえなきゃいけないんで夕食後にどう?」
「わかった、ブリーテイングルームで20:00。」
解析数値を見ていたら、ブライトが入ってきた。
「アムロ いつから眼鏡かけるようになったんだ?」
「最近だよ、ちょっと目が霞むんで。」
「目が霞むって、老眼か?」
「そんなわけあるかよ。それよりこれをみてくれ。」と場所をずれて画面を見せる。
「最近の監視映像なんだが、」
「どこの!監視映像だ。これ。」
「細かいこと気にするなって、ばれなきゃ良いんだし。うちだって連邦軍だからさ、
それより、これ!」
「どれだ?」
「この隅の赤いの!」
「これがどうかしたのか?」
「やつだ!」
「はあ?何で分かるんだ。こんな小さいのが、MSだかどうだか分るものなのか?」
おまえ頭大丈夫か?と暗に問うブライトに
「時間と方向からみて、まず間違いないんだ。人が熟睡しているのにがん飛ばしてきたんだから。」
「ますます分からん。ともかく落ち着いて説明しろ。」
「2日前夜中にやつの殺気を感じて目が覚めたんだ…。間違いない。問題は今まで感じたことが無いほど、というより以前対峙した時と同じほど身近に感じたことだ。NT用MSだと思う。ほぼ完成しているんだろうな…。」
「シャアか、」
「連中の見張りもずっとついているから、俺がどこにいるのかすぐ分かる、もしかしたら俺が目を覚ましたのも知覚したかもしれない。なんか嫌だな…。」
さすがに気味悪いぞ。何もそんなに見張らなくても良いじゃないかと思うし…。
どいつもこいつも、まったく! 思い切り眉間にしわがよる。
「アムロ。」
「ああ悪い。それで、こちらの備えは間に合うかなと思ってね。焦っても仕方ないのは分かっているのだが。」
「組み立ては始めているそうだが、コクピットの材料で揉めているようだ。予算で。」
「予算か〜。」ああ 力がぬける…。
「上のやつらは戦闘になると思っていないだろうしな。」
「ここ5・6年おとなしいからなあ…俺を前面に出せば何かしている気になるんだろうが…うらやましい連中だよ。う〜やっぱり囮になるしかないかな…。」
「囮って誰が、何の?」
「俺が、この間のやつらの。まだ殺気感じるし、近くにいるよ。変わりに脅してもらおうかと思ってさ。」
「おい。それは許可できない話だぞ。」
「うん。ブライトは知らん振りしていて、許可されなくてもやるから」にっこり
「お〜い…人の話を聞け!」
「ん〜実はちょっと嫌な予感がするんだ…。お膳立てされているような…でも時間がないから乗ろうかと思ってさ…。」
「おい!それは!」
「俺だって会いたくないよ戦場以外では。でも来るだろうな…。」はあ〜
「そういえば俺あの人とまともに話したこと無いかも…。」
「そうなのか?そうは思えないがな。お前たちは。」
「一括りにしないでくれよ。たいていMSだし、カラバの時も仕事の話以外は説教されたぐらいでのんびり話したこと無いな。うん。それに俺から話したい話題ないし。」
「それはもったいないことしたな。本当に。お前たちはじっくり話し合うべきだったと思うぞ。」
「そうか?そう言えばブライトはエウーゴの頃やつと色々話とかしたのか?」
「あ〜、そうだな、家族のこととか…、ほとんど仕事のことだったな。」
「だろう?あの人の頭には作戦・戦略・理想とかで一杯で他人と話し合うと言うのはない気がするね。敵か見方か、利用できるか邪魔か、行くか戻るか。」
「おいおい、そんなに思い切りのいいやつじゃないぞ。やつはやつなりに色々悩んでだな。」
「まあそうだろうね。だから覚醒しないんだろうな。覚醒しなくても出来るから余計だろう。野心もあるし。なんにしても俺とは大違いだな…。」
「お前たち似ていると思うが、いや似るというより、通じるという感じがするが、すまん、うまく表現できない…。」
「NTだからって、わかっても仕様がないと思っているよ、俺は。頭では相手の言うことが正しいと思っても、頑じ得ないものがあるからな。それに話し合う暇がいつもなかったよ、殺し合いに忙しくて…。そういう縁なのだろう。」
「そうかもしれないな」
「ま 考えてもしょうがない。任せてよ。艦長」
「いや!俺は反対だからな!」ぎゃあぎゃあわめくブライトをなだめて、とりあえず部屋にもどる。