エンゲージリング
「ん?指輪、なんですかコレ?」
ユイは興味津津にそれを見ている。そしてニヤニヤと笑いながら穴を通して俺の方に向き直った。
「これ女物ですよね、ひなっち先輩こういうの付ける趣味はないだろうし、もしかして誰かへのプレゼントだったりしてー?」
「ちげーよバカ、ほっとけ」
それをさっさと奪い返そうとするがユイは俺の手をクルリと回転しながら避けた。短いスカートとそこに付けられた尻尾がひらりと舞う。ユイはまるで俺の弱みを握ったかのように嬉しそうな顔をしていて、またそれが癪に障る。
「違うんですか?んーじゃあこれが実はすごい兵器とか!?ここからビームが出るんでしょ!」
「んなわけあるか!」
大声で否定したが同じことを俺は少し前に口にしている。思考回路がユイと同じという事実にショックを受けた。じゃあやっぱり贈り物でしょ!と笑いながらユイは指輪をグイと俺に近付けた。窓から射す光が反射してそれはチカチカと輝いている。
「それはもらいもんだよ」
「え!?先輩がもらったんですか?…それはつまりコレってこと」
「違う!いらないっていうからもらったんだ!もったいねーだろ」
何となく本当のことを言うのがイヤで、もらったという事以外は適当なことを言ってしまった。口の横に持っていかれたユイの手をつかんで無理やり引き下ろさせる。いつ覚えたんだよそんなの!ついでにそのまま指輪を奪い返すとユイは少しジタバタと抵抗したがすぐにあきらめた。
「なーんだ、それが好きな人へのプレゼントならそのまま奪っちゃおうと思ってたのに」
「いやがらせかよ」
「そう思うならそうでいいですよー」
ユイはなぜかふてくされた顔でそっぽを向いた。ふにゃふにゃと尻尾が揺らめいているがどういう構造なのだろう。
「で、それどうするんですか?」
「んー…持ってても使わねーしな」
その時俺の頭の中に「今がチャンスだ」という文字が浮かんだ。俺はそれに一瞬納得しかけるが、すぐに何のチャンスだと我に返った。確かにコイツに指輪を渡すなら今このタイミングしかないだろう。まあ、そうだな。持っていても仕方ないものだ、ぽいっとあげてしまえばいい。別に他意はないんだから。
「やるよ」
「へ?」
「ほら、やるっつってんだから受け取れって」
あっけにとられた表情でユイは指輪を受け取った。しかしすぐに笑顔に戻ったかと思ったらまたむっとした表情に戻る。
「これってもらいものですよね。それを女の子にあげるってひどくないですか?」
「はあ?別にいいだろ!」
「……まあいいですよね、特に意味はないんだし!」
ユイは頬を膨らませながらも指輪を自らの指に一本一本はめていた。そして左手の薬指にはめようとしたとき、一瞬ためらうような姿を見せたがユイはそのままそこに指輪をはめた。そして優しく笑うと手を広げてその指を俺に見せてくる。なんだか癪だけどすごく似合っている。だがよく見るとその指輪はユイの指には少し大きいらしかった。
「これユイの指に合わないんですけど」
「親指にでも付けとけ」
「いりません、返します!」
またむすっとした表情に戻ってしまったユイはそれを俺の手に無理やり戻してきた。また持ち主を失ってしまった指輪を俺は仕方なくポケットにしまう。
「先輩、今度サイズ教えますから今度はピッタリのお願いしますね」
「誰がそんなの用意するか」
まあでも今度ギルドの奴に作り方くらいは聞いてもいいか。聞くだけだ、聞くだけ。そうやって俺はまた心の中で意味のない言い訳を繰り返した。