魔女と食事
「なーんてこともあったなあ」
アメリカで有名なバーガーショップで遠い昔の話をしていたイギリスをじとりと見ていたアメリカが、手に持ったやたら分厚いバーガーにがぶりとかぶりついた。
「覚えてるか? 俺のこと魔女だなんて、ほんと子どもってかんわいいよなあ」
「うるさいよ、きみ」
忌々しげに眉を寄せて吐き捨てられる。ツバでも吐きそうな険しい表情だが、意外とお上品なアメリカがそんなことをするわけもなく、ただ刺すような視線でこちらを見つめてくるだけだ。
「んだよー。可愛かったって話してやってんだからいいだろ」
「可愛くなくてけっこうだぞ。だからきみの頭の中にいるちっこい俺の消してくれ」
「無理にきまってんだろ、ばあか」
ふんっ、とそっぽを向いたアメリカが、またひとくちバーガーにかぶりつく。肉が三段になっていて、分厚いバンズにはさまれているバーガーだ。野菜も入っていると豪語するが、イギリスの視線にそれらしき緑色は見えない。
自分の右手に握られているバーガーにも視線を向けてみる。アメリカほどのボリュームはないが、それでもかなりのカロリーがあることは眼に見えて明らかだろう。
自分のことを食べるつもり、と言ってたあのころの方が、まだ栄養にもカロリーにも優しいものばかりだったはずだ。しかも、とテーブルの上に視線を向けると、そこには油でぎとぎとなポテトフライと炭酸たっぷりな飲み物まである。目の前に座るアメリカにいたってはイギリスの三倍の量を目の前に広げているのだから、もう太るために食べているとしか思えない。
「いまの食事のほうがよっぽど太るよなあ」
「なんだい。人のおごりなのにケチつける気かい」
「いや、そういうわけじゃねーけど」
左手でポテトをつかみ、それをくちに運ぶ。もぐもぐと咀嚼していると、目の前に座っているアメリカの唇がにやりとつりあがるのが見えた。
「俺はね、そのやせっぽちのきみを太らせてあげてるんだぞ」
「やせっぽちじゃねーよ」
「肉がついてるの太ももくらいじゃないのかい」
「そんなわけねえだろ! 無駄な肉がないだけだ」
「だから、無駄な肉をたくさんつけてあげてるんじゃないか」
なんだそれ、とあっけにとられてアメリカを見たイギリスの耳元に、すいと目の前の男の唇が近づいてきた。
そして囁くように落とされる言葉。
「たくさん食べさせて太らせて、食べちゃうつもりだから、ね」
END