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君の大事なメロディ

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歌う帝人くんパラレル。


君の大事なメロディ


二年ほど前、一世を風靡した歌声があった。

男性とも女性ともつかない瑞々しい声が奏でる愛の歌は、ネットを媒介に配信され、東京中の若者を熱狂させた。どこの誰ともわからない誰かの歌のことを誰もが耳にし、口にし、クチコミを通じて瞬く間に街を染め上げた。とどまることをしらないその人気によりラジオで流れ、遂には社会現象としてニュースに登場した。しかし、その後、歌い手とその歌の作り手は表舞台には決して現れることなく、ネット上からも姿を消した。手がかりは唯一つ。彼もしくは彼女が、池袋を拠点とし、ネットを媒介とするチーム、ダラーズのメンバーだと言われていることだけだった。

平和島静雄も、またその歌い手に心を奪われた者の一人だった。仕事を次々にクビになり、臨也と会っては街を破壊し、孤独と自己嫌悪に沈んでいた時期、鬱屈を洗い流すような清涼なあの声を聞いたのだ。輝く未来を信じ、人との繋がりを信じ、希望にあふれたその声に、まだこんなに綺麗なものがこの世にあるのかと感動さえ覚えた。そのまっすぐなひたむきさは、やけっぱちになってしまいそうな彼の心を慰め、支えた。いつか会いたいと、それだけを夢見て、それに恥ない自分になりたいと思い、生きてきた。

しかし、手がかりはダラーズのみ。少しでも手がかりを掴もうと、静雄はダラーズに入り、集会にも参加し続けた。顔さえわからなくても、同じ空間にあの人がいると考えると、それだけでふわふわと心が浮き立った。だが、だんだん時が無為に流れるにつれ、焦燥が募っていった。もう会うことなどないのかもしれないと、そう思ったとき、また一つ、重要な手がかりが浮上した。ダラーズの掲示板に書かれた一つの書き込み。それは甘楽というハンドルネームのメンバーからもたらされた情報だった。

『もう、みんな甘楽ちゃんをバカにして〜!ぷんぷん!ほんとに甘楽ちゃんは情報通なんですから!みんな信じてくれないなら、証拠に一つ取っておきの情報を教えちゃいます!あの伝説の歌姫はね、実は、ダラーズのリーダーなんですよっっvvえへっ、言っちゃった〜!太郎さんゴメンナサイxxx』

静雄がその書き込みを見たのは、本当に偶然だった。その一時間後、その書き込みは消されていた。削除申請が出たとしても素早すぎる反応が、その情報の信ぴょう性を証明した。少なくとも、ダラーズの管理人とあの歌い手は繋がっている。

『ダラーズのリーダー』『太郎』

もしかして、『太郎』というのが彼の名前なのか。今時はないくらい平凡な名前だから、ハンドルネームなのかもしれない。つまり、あの人は男なのか。少しがっかりした気持ちを抱えつつも、新たに得たとびっきりの情報に舞い上がる心を抑えられない。その情報は決定的なものではなかったが、それは少なくとも、ダラーズにとどまり続ける価値を実感させた。





さらにその一年後、その邂逅は、思いもよらない形で訪れた。そのことに関して言えば、仇敵の情報屋に感謝してもいいくらいだった。

彼と出逢った当初、それは何も運命的なものを感じさせないごく普通のものであった。

いつものように喧嘩をし、いつものように怪我して、友人の闇医者の家を訪れた。そこにいたのは、気のいい友人のセルティと見知らぬ少年だった。新羅を待つ間、紹介された彼は、一見中学生に見えたが、大学生になったばかりだと言う。初対面で頭をなでてしまった静雄は、顔面詐欺だと心中で喚いて固まった。だが、そんな失礼な反応にも、苦笑しながら「慣れてますから、気にしないでください」と許した竜ヶ峰帝人に、どこぞのノミ蟲とは正反対の出来た人間だと好感を持った。それが始まりだった。



「静雄さん!こんばんは」

今日も収穫なしかと半分諦めた気持ちで出席したダラーズの集会にて、年の離れた友人に声をかけられた。

「よう、竜ヶ峰。元気だったか?」

「はい。静雄さんも怪我もなさそうでよかったです」

「……あー、今日はノミ蟲の野郎とも会わなかったし、仕事も早めに切り上げたからな」

何の裏もない笑顔と、当たり前のようにかけられる気遣いの言葉に和む。竜ヶ峰とはセルティの家で何度か顔を合わせた程度だが、一緒にいて心地良いと思える希少な相手だ。くるくる変わる表情といつもきらきら輝いている目が素直な性根を表していて、好ましい。それでいて、不思議な安心感を感じる。それに甘えて、本来なら年下に聞かせるべきはないこと愚痴などをこぼしてしまい、慌てる静雄を、動じずに笑って受け止めてくれるところに、らしくないむずがゆさを感じた。

「この集会のためにですか?嬉しいです」

「?なんでお前が?」

「あっ、い、いえ、僕はただ、静雄さんがダラーズを大事にしてくれてるみたいでちょっと嬉しいなって。僕、静雄さんとの繋がりなんて、ダラーズくらいだから…。すみません、気持ちの悪いこと言っちゃって…」

はにかんだ顔に、きゅんっと胸の奥が変な音を立てる。

「………。いや、っつーか、いつでも連絡寄こせばいいだろ。携番交換すっか?」

「っ!はい、是非!」

嬉しそうな笑顔に何故か心臓が高まる。俺の好みは年上のはずだろ!っと自分自身に言い聞かせ、でも大学生なら犯罪じゃねえよな…と心のどこかで囁く声を無視する。


そんな心和むやり取りの中、場違いに登場したのは、いくら殺しても殺し足りないヤツだった。

「みーかーどーくんっ!」

「い、いざやさ」

虫酸が走る腐った声を聞き、振り向こうとした竜ヶ峰を後ろから黒い腕が抱き込む。ぐりぐりと頬を竜ヶ峰の頭に押し付けているそいつは、新宿にいるはずの折原臨也だった。

「やっと見つけたー!流石にこれは来るだろうと思ったんだけどやっぱりだね!もういい加減許してよ。あんまり避けられると甘楽悲しくて泣いちゃうっ!!」

「…その口調はやめてください。って、離れてください!今はまずいんです!」

「いーーざーーーやーーッ!!!」

「うわ、シズちゃんその顔コワーイ!血管浮きすぎて切れちゃえばいいのに!」

「竜ヶ峰から離れやがれッ!そして今すぐ死ね!!」

「どっちも嫌に決まってんじゃん。シズちゃんはバカだなア」

「ウルせえ!」

それまでもたれ掛かっていた電柱に力を入れる。ばきばきと音をたてて、罅が入り、ぐらりと傾いた。それを見て、近くにいた群集がわっと散っていく。

「静雄さん!それはダメです!」

「わ、帝人くん、暴れないでよ!」

天敵の腕の中にいる竜ヶ峰を見て、これで殴るとあいつが死んでしまうと焼き切れそうな思考の中で考える。半壊した電柱から手を離し、代わりに傍に立っていた標識を掴んだ。

「え、いや、そっちも!電柱よりはマシですけど!」

臨也の腕の中から這い出した帝人を見て、安心して標識を引き抜いた。これで存分に臨也を殺せる。

「だから、それもダメですって!」

「もう無理だから離れてなよ。帝人くん」

ぱちんと帝人にウインクをかます臨也に、腹が煮えくりかえるほどの殺意を覚えた。

ちょこまかと逃げ回りながら、竜ヶ峰から離れ、逃げる人波に飛び込もうとする卑怯者を追って、地面を蹴った。
作品名:君の大事なメロディ 作家名:川野礼