3Z/先生の誕生日/銀魂
帰りのショートホームルーム。
開けた窓から流れる風にキンモクセイの香りがする。
「――あー、つーわけで、職員入口にある校長の花壇の花が誰かに切り取られていたそうだ。校長はヒッジョーに嘆いていてな、誰だか知らんが正直に名乗り出れば罪には問わんということだ」
銀八の言葉に、生徒たちの視線が黒板横の花瓶に移動する。そこには紫を帯びた青色の鐘形の花が活けられていた。たしか、リンドウという花だ。
銀八は教卓に置いた日誌をパタパタといじりつつ、ダルそうに職員会議でのメモを読み上げる。
「まさかお前らの中にそんなことする奴はいねーだろうけど、もし俺がやりましたーって奴はこっそり謝ってこい。ダメだぞー、人のもん勝手に取ってきちゃー」
あの花を持ってきたのは誰だったか。生徒たちはきのうの記憶を振り返る。
――おーい、誰かこの花活けてくれやー。先生もたまにはお前らにプレゼントするぞー。だからお前らも俺の……
最後までよく覚えていないが、あの花を持ってきたのは銀八だ。
生徒たちの視線が教卓前の銀八に移る。
「先生!」
手を挙げた土方に銀八は片眉をあげた。
「あの花はどこで買ってきたんですか」
「どこから採ってきたアルカ!」と続けたのは、留学生の神楽だ。
銀八は白髪頭をポリポリとかいて、ちらりと花瓶の花を横目で見つめた。ふうと紫煙を吐くと、黒板を振りかえる。そして、映画大会、とチョークを鳴らす。
「明日の映画大会だけど――」
銀八は二人の質問を無視した。
やっぱりお前か!
生徒たちの心の声が一致する。
「体育館に直に座ることになるので、今回は特別に座布団持ってきてもいいってよ。ま、あんま大きいのだと荷物になるけどよ」
「何を見るんでしたっけ?」
「ドラヱモン、のび太郎と鉄人兵団」
「なんでアニメ?! 高校生になんでアニメ?! それを選んだ先生たちの意図がわかんねーよ!」
「バッカヤロウ! ドラヱモンを馬鹿にすんじゃねーよ。涙なしじゃ見れねーぞ。メカトピアの鉄人兵団最強だぞ。ガ●ダムもびっくりだぜ。リリルがずけー可愛くてせつねーんだぞ。ちなみに先生はあのエンディングの入り方が好きです。リリルゥゥ!」
「お前が選んだのか! お前が見たかっただけか!」
「各自ハンカチを用意するように」
クラス中がブーイングするなか、銀八は次に進める。
「えーと、あとは…。廊下にジュースの紙パックとかを捨てる輩がいる。ゴミはゴミ箱へ捨てるように。――はい、今日の連絡事項は以上」
銀八の言葉に、教室内が待っていましたとばかりに帰宅の空気になる。
「えー、あとは…お前らから何かあるか?」
銀八の問いに誰も答えるものはいない。
「……誰か、何かねぇのかー」
銀八はしつこく聞く。
「先生! 何もないアルヨー!」
瓶底メガネの神楽が叫ぶ。
「いーや、ほら、何かあるだろ。先生に言いたいことあるだろー」
いつも気だるげな銀八が少し焦ったようにタバコの煙を吐き出すが、身に覚えがない生徒たちはざわざわとお互いの顔を見合わせた。
「先生! 特にありません!」
「ナンダヨ、早ク帰ラセロヨ!」
「先生! 土方くんの存在が不快です!」
「総悟ォ! テメェ!」
「先生! 今月に入って13回もお妙さんに振られました!」
「いやいやいや、そういうことじゃなくてよ。今日は何月何日かな?」
「10月10日です!」
「そう、10月10日だ。10月10日は何の日かな」
「旧体育の日です!」
と、近藤。それに神楽が続く。
「萌えの日ネ!」
「目の愛護デー!」
「……そーじゃないよな。先生、きのう言ったねー? この花を持ってきたときに言ったねー?」
銀八はあせったようにくわえていたタバコを携帯灰皿で揉み消す。
「覚えてませーん!」
「…………」
銀八はイラついたように眉を寄せた。
作品名:3Z/先生の誕生日/銀魂 作家名:ume