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3Z/先生の誕生日/銀魂

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「先生。用事があるので早く帰りたいのだが」
「お前はヅラを取るか、髪を切ってから発言しろ」
「先生。本当に告訴しますよ。弁護士には相談してるんです」
 銀八は新しいタバコを取り出すと、火をつけながら黒板の前を左右に歩き始めた。
「…人がこの世に存在するかぎり、生まれてきた日というものがある。それは、めでたいことで、人から祝われたりする。お前らも祝ってもらったりするだろ? プレゼントもらったりするだろ? ハイ。ここまで言ったらわかるねー? 先生が何を言いたいかわかるねー?」
「誕生日のことアルカー?」
「そう! そうだ! よく言った神楽! それで?」
「先生! 今日はうずまきナルト君の誕生日です!」
 沖田が手を挙げた。
「へー、ナルトって今日誕生日なんだー」
「NARUT○っておもしろいよなー」
「私、イルカ先生好きアルヨー」
 クラス中がナルトの話をはじめ、担任を置いてざわつき始める。
 銀八はバンッと教卓をたたいた。音に驚いた生徒たちが一瞬で静まり、銀八を振り向く。
「違うだろ…テメェら…。お前ら…本当は気づいてんだろ? わざとやってんだろ」
 銀八の低い声に教室に重い空気が流れる。
「……先生…すみません。俺たち間違ってました」
「!」
「今日は、XANXUSの誕生日でした!」
「ザンザスって…あの、家庭教師ヒットマンREB○RN!の?」
 沖田の声に珍しく妙が乗る。
「そうそう。今日誕生日のキャラって結構多いですぜ。野原しんのすけの母ちゃんもたしか今日だったような。野原みさえ」
 再び、教室内がリボーンとクレヨンし●ちゃんの話で充満する。
 銀八はまだほとんど残ったタバコを揉み消し、なんだか悲しい目をしながら窓を外を見つめた。
 西の空には黄色い太陽が浮かんでいる。時折流れてくる風に、微かなキンモクセイのにおいがして、少しせつなくなった。
「……先月の9日…3Eの担任、松平先生の誕生日でよ…。職員室でなんか派手な野球帽かぶって自慢してんだよ。クラスの奴らからもらったってよ…。いや、べつに羨ましくなんてねーけどよ。全然うらやましくなんかねーけどよ。お前らに期待なんぞしてねーがよ……」
「先生……」
 ぽつりぽつりとつぶやく銀八に、いままで騒がしかった教室が静まった。
「先生…すみません。僕ら先生の気持ちに気づかなくて…」
「新八……」
「ゴメンヨ、先生。私たちちゃんとお祝いするネ」
「神楽……」
 銀八の表情に希望が表れる。
「だから、先生の誕生日を教えてヨ!」
「ええええぇぇぇ?!」
 ――だからさっきから言ってるじゃねーの!
 もうだめだと銀八は思った。このクラスに誕生日プレゼントも、祝いの言葉も、何もかも期待してはダメなのだ。こういう、こういうクラスなのだ。
 こんなクラスに誰がした! 俺か! 俺なのか?
 銀時が絶望と希望の狭間で倒れかけたその時だった。
「なーんちゃって」
 声と共に生徒全員が立ち上がった。
「銀八先生、誕生日おめでとう!!!」
 生徒全員が口を揃えて叫び、わあっと拍手の嵐が巻き起こった。
 驚いた銀八は呆然とし、拍手をしながら自分の元に集まってくる生徒たちを見つめた。
「先生、焦らしてすみません。おめでとうございます」
「あんなことで落ち込むなんて先生らしくないですぜ」
「誕生日に免じていつもの暴言を忘れてあげます」
「先生、これ使いかけで悪いけどマヨネーズやるよ」
「これ本当はお妙さんにあげるつもりだったんだけど、先生にあげます!」
 そういって近藤に渡されたのはオリジナルラブソングが入ったMD。
「………」
 いらねー。
「銀八先生、誕生日おめでとうございます。ところで、私の誕生日は31日なんですけど、知ってるかしら? 知ってるわよね? ね?」
「…………」
「センセー、おめでとネ。何歳になったアルカ? 人には言えない年齢アルカ? これ、クラスのみんなからネ。こんなんで悪いけど、みんなの気持ちアル」
 神楽から花束を渡される。新聞でくるんだだけの花束だったが、包まれた花は新鮮で輝いていた。
「…お前ら……これ…」
「あーあー、感謝の言葉はいいネ。なんだかんだで、みんな銀八先生が好きアルヨ」
「そうだぜ!」
「そうです!」
「それじゃ、私たちは帰るアル。感動の涙はひとりになってゆっくり流すといいヨ」
「………」
 じゃあセンセーさよーならー、と一人ひとり教室を出て行く。
「先生感動してたねー」や「帰りどこ寄ってく?」などそれぞれの会話が廊下に響いて、また遠くなっていく。
 そして、銀八たけが教室に残った。
 銀八はもらった花束を抱えしゃがみこみ、両手で顔を抑えしくしくと泣いた。
「…あいつら……」















 もらった花束。
 それは、きのう銀八が採ってきた校長のキキョウだった。
作品名:3Z/先生の誕生日/銀魂 作家名:ume