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銀新◆吾輩は狛神である◆銀魂

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 ――と、いつもこんな感じである。
 関係のない吾輩に述懐して楽になる。
 吾輩に誰にも言わぬ胸の内を見せるのは、吾輩が人語を理解できたとしても他人に話さぬ、または他人が吾輩の言葉を理解できぬということもあるだろう。銀時が吾輩以外にこうべらべらと喋るところを吾輩はあまり見たことがない。
 この時は酔っていたのでほとんど銀時一人で話していたが、日中散歩しながらなどは、執拗に返事を求めてきたりして、かなり面倒くさい。新八のこういう態度はどう思うか? など、吾輩が呆れているのに全くやめようとしない。
 銀時が近頃、新八のことしか考えていないということがよくわかる。
 こういうやり取りが嫌で、先ほど銀時から散歩に誘われたがきっぱり断った。
「いっ」
 ふいに聞こえた短い悲鳴に吾輩は目を開けた。
 ソファに座って縫い物をしていた新八が、自分の指を見て苦い顔をしていた。
 うららかな午後。いつものように仕事がない日である。神楽は外へ遊びに出掛け、銀時は吾輩に断られて一人で散歩に出かけていた。
 吾輩は銀時の椅子に腰掛け、窓から流れる風を浴びながらまどろんでいた。新八は普段と同じように、洗濯物を取り込んでたたんでいたのだが、今度は銀時の着物の襟の部分を何やらちくちく縫っていた。
 背中の毛を撫でていく風が心地よくてあくびが止まらない。新八も吾輩につられてなのか、何度もあくびを噛み殺していた。吾輩は瞼がとても重くて再び目を閉じることにする。
 テレビもラジオも、新八の歌声もせず、外のざわめきは聞こえるが、とても静かな空間であった。時の流れがゆっくりとしていた。
「おーう、たでーまー」
 どれくらい時間がたったのか。気持ちよく眠っていたが銀時の声で起こされた。デリケートな吾輩はこういう声にすぐ目を覚ましてしまうのだ。せっかく気持ちよくしていたのに、と銀時に怒りがこみ上げてくる。
 眉を寄せながら目を開けると、針仕事をしていたはずの新八がソファに横になっていた。テーブルに広げた裁縫道具もそのまま、縫っていた銀時の着物も手に握ったままだった。よほど眠かったのだろう。
 吾輩ははっとした。銀時がこれを見てなんと思うか。これは見物かもしれない。吾輩は単純に喜ぶ銀時を想像して勝手に愉快になる。
 居間の戸が開かれ、菓子のたくさん入っている紙袋を抱えた銀時が入ってくる。パチンコに行っていたのだろう。珍しく当たりがきたのかもしれない。
「新八ぃ、これみや、げ…」
 寝ている新八に気づいた銀時はピタリと立ち止まった。驚いた顔でじっと新八を見つめている。銀時はしばらく何か考えているようだったが、やがて向かいのソファに紙袋を置き、音をたてぬように新八へ近づいていった。
 銀時はいつもの目を細めた優しい表情だった。新八が握り締めている着物を手からゆっくりはがし、真新しい縫い跡の襟元に気づいてふっとはにかむ。
「……新八…」
 その甘い声音に、吾輩は赤面しそうになってしまった。それはまるで愛の言葉を囁いたかのような呼びかけだったのである。吾輩は急に自分がここにいてはいけないような気がして、尻がこそばゆくなってきた。
 銀時は新八の顔の傍にしゃがみこみ、寝ている顔をじっくり眺めている。すやすやと安心しきって寝ているその顔は、銀時の思慕を察してもいないだろう。
「……新八」
 もう一度、銀時が名を呼ぶ。先ほどより淋しさを含んだ声であった。
 銀時が顔を寄せていく。
 吾輩はひどく落ち着かない心持ちになって、視線をきょろきょろと彷徨わせるが、やはり行く先を見届けたいのが本心である。
 そして、吾輩がいやらしくも期待したそのとき、銀時は胸元にあった新八の手を取り、その指に口付けしたのだ。
 銀時は唇をはなすと、接吻した新八の手をぼんやり見つめ、てへっと笑った。
 そろそろと手を元に戻して、銀時は立ち上がる。照れくさくてたまらないという叫びが聞こえてきそうな横顔であった。銀時は夕日よりも真っ赤な顔をして和室に消えていく。
 はあ、と吾輩は思わず息をついた。無意識に力んでいた体が弛緩していく。思ったより、吾輩は緊張していたらしい。心の臓がばくばくと動いていた。
 和室への襖に視線を移して銀時を思う。きっと今ごろ、湧き上がる歓喜と羞恥に悶えているに違いない。両手で顔を抑えて、左右にごろごろ、足をじたばたともがく奴を思い浮かべると、腹の底から笑いがこみ上げてきた。
 うつむいて笑いをこらえていると、新八が身を起こした気配がする。たった今、あの男が自分の為に葛藤していたことなどお前は知らないだろう、と苦笑しながら新八の顔を見て、驚いた。
 新八の顔は、銀時に劣らないほど真っ赤になっていたのだ。――まさか。
 新八は先ほど銀時の口付けを受けた左手をまじまじと見ていた。まるで信じられないといった顔であった。そして何かを思い出したかのようにぎゅっと目をつぶり、その左手を胸に抱きしめたのである。
 吾輩は目玉が飛び出るほど驚いた。そして、ようやく全てを察したのだ。
 新八も。新八も、銀時に恋をしている。
 吾輩はたまらず笑い出してしまった。なんだか自分のことのように嬉しくて、恥ずかしくて、尻尾をぶんぶん振り回したくてたまらない。
 一体、いつからなのだ。よく観察していたつもりだったが、まったく気づかなかったぞ、新八。吾輩がこうなのだから、銀時は察することもできまい。
 この吾輩すら欺くとは、そのメガネも大したものである。メガネ、メガネと馬鹿にしていた自分がとても恥ずかしく思えてくる。
 頬を染めて、どうしようと呟いている新八を一瞥して、吾輩はふふんと笑い、椅子から飛び降りた。そのまま玄関に向かうことにする。
 日が暮れるまで留守にしてやろうと思う。数時間の自由をくれてやるから、悩むなり、恋人に昇格するなり、好きにしたら良い。
 そうそう、神楽を探して足止めしてやらねば。吾輩の温情に二人とも感謝し、飯をもっと旨いものにしてくれればよいのだが。
 玄関を出ると、吾輩は和室に向かってワンと一吠えした。
 せっかく時間を作ってやったのだからうまくやれよ、銀時。
 吾輩はにやりと笑うと、神楽を探して青空の江戸の町を闊歩していく。遠くの豆腐屋のラッパの音が聞こえていた。


 本当に人間とは面白い生き物である。