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銀新◆吾輩は狛神である◆銀魂

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「え、帰んの?」
 新八の背中を見つめていた銀時が驚きを隠せない様子で言った。
 割烹着を脱ぎながら、新八は、はい、と答える。
「……こんな時間だし、泊まってくのか思ってたけど」
 午後9時を過ぎていた。
「アンタらが片づけを僕にやらせるからでしょうが」
 新八が今までしていたのは夕食の後片付けだった。銀時が、いや、銀時と神楽がそう仕向けたのだ。
「じゃ…風呂入ってけば?」
「いや、今日は自分ちで入りますよ。もう遅いし」
「………」
「こんな時間になっちゃったし、いつもなら泊まらせてもらうんですけど…今日は帰ります」
「あ、そう……」
 銀時はどうでもよさそうな振りをしてポリポリと頭をかく。
「明日の朝、姉上と道場の掃除するって約束しちゃったんですよ」
「へぇ……」
「毎朝、僕一人で軽くしてたんですけど、今日の朝話してたらそういうことになって」
「…ふーん」
 心なしか楽しそうに話す新八を銀時は興味なさそうに見ていた。
 吾輩には銀時の本音が手に取るようにわかった。その心は――言うまでもない。
 新八はそんな銀時のおもしろくなさそうな顔に気づきもせず、割烹着をたたみ終わると、和室に置いておいた自分の風呂敷を取りにいった。
「あれ? 新八、帰んのカ?」
 風呂からあがってきた神楽が意外そうに声をかける。
「久しぶりに泊まってくと思っていたネ。私、新八の作った朝ゴハン食べたいアル。帰んなヨ」
 大きなタオルで濡れた髪を拭きつつ神楽が口を尖らせる。
 その時、銀時の目が光ったのを吾輩は見逃さなかった。よく言った神楽! とでも言いたいのであろう。
「神楽ちゃん。明日の当番、君だろ。僕にやらせようとしてもムダだよ」
「ちっ」
 神楽が横を向いて凶悪な顔をする。
「あれ? なんか今、舌打ちしなかった?」
「違うネ。ちくしょう、使えねぇな新八、の略アル!」
「フォローなってねぇよ!」
 新八が神楽といい合いをしている後ろで、銀時が舌打ちしているのを吾輩は気づいていた。
「…しゃーねぇな。新八。送ってってやるよ」
 徒歩で30分以上かかる道のりが浮いたことに、新八は素直に喜ぶ。
「え、いいんですか? わ、やったぁ。すいません」
「………」
「アレ? 銀さん?」
「……なんでもねぇよ」
 なんともわかりやすい男である。
 新八を送っていった銀時が帰ってきたのは日付が変わってからだった。すでに神楽は床に入っている時間である。彼女に気を使ってか、静かに玄関が開けられる音がした。
 月の綺麗な夜だったから、吾輩はいつもの寝床とは違う和室に寝転がり眠っていたのだが、銀時の入ってくる音で目が醒めた。
「…お、定春。ここにいたのか…」
 呼びかけに目を開けると、部屋は月明かりなのか街灯りなのか、青白く明るかった。
 部屋の中央には新八が敷いていった銀時の布団がある。そこに向かって奴の忍び足が向かったが、布団を素通りして銀時は窓辺に腰掛けた。声音と匂いでこやつが酒を飲んできたのはわかっていた。
 銀時は窓から身を乗り出して、高いところにある月を見上げているようだった。ふらつくほどではないが、酔っ払いが窓辺にいることに吾輩は少し心配してやる。
 この家の周りは酒を飲ませる店が多く、夜も眠らない街である。派手な看板が多く、そのせいで空も明るい。そんな星も見えない空に浮かぶ月と、けばけばしい電気の光る街を銀時は見つめていた。
 キャハハ、と女の媚びた声や、疲れた酔漢の呻き、自動車の走る音などなかなか騒がしい。
「……新八…」
 酔いどれの戯言の始まりである。
「ちくしょう…かわいいんだよ、あいつ。ぬか喜びさせやがって…。今日こそ泊まってくと思ってたのに。なあ、定春?」
「ワン」
 知らねーよ。
「ま、ねーちゃんのこともあるし? ウチいると神楽が甘えるから面倒かけるし? 銀さんそんな子供じゃねぇし、帰んなとか言わねぇけど。もうちょっと一緒にいたいっつーか? いてくれてもいいじゃねぇか。定春もそう思うだろ?」
「ワン」
 別に。
「新八の家に着いて別れる時さ、なんかすげー淋しくなってよ。新八が家に入るまでずって見てたりよ。新八がいなくなっても玄関見てたり…。なんか胸ん中もやもやして家帰りたくなくて、酒飲んできっちゃったりして。金ねーのに」
「ワン」
 知らねーよ。
「何、俺、マジで恋する乙女じゃね? 気持ちワルっ」
「ワン」
 ホントにな。
「いやいやいや、でもね。あいつ、なんつーの? 花が咲いたような笑顔っつーの? めちゃくちゃかわいくて、かわいくて…かわいくて……」
「ワン」
 や、普通だからあいつ。
「今日の昼さ、新八のうなじに蚊に刺された跡があってよ…。ピンク色でぷくうって腫れてんだよ。黙ってじぃーっと見てたら、新八、ぽりぽり掻いてんの。俺、なんかカァァって血が上って、そこにむしゃぶりつきたいっーか? 舐めたいっつーか? 危なかった……」
「ワン」
 マジキモイ。しばらく吾輩に話しかけないで。
「エロイといえば、夕飯作ってるときにさぁ、今日酢豚だったじゃん? そのタレが指についたみたいで、新八、一本一本舐めてんの。指舐めながら、銀さんこれ持って、って、お前どんだけ誘惑すんの? …って俺もう泣きそう…」
「ワン」
 もういいから寝かせてくれ。
「俺の理性を試す真似すんじゃねーよ。……あ、じゃあ、今日は泊まってかねーで良かったんじゃね? 俺的に」