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銀新◆最後に笑うは我なりや◆銀魂

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 今の様子を見ていたのか、遊んでいた定春が土手を上ってきていた。物言わぬ顔で自分たちを見つめてくる定春を撫でてやりながら、新八を後ろに銀時は足を進める。
 今夜は少し酒を飲んで、定春に愚痴を聞いてもらおう。
 風が定春の白い毛を逆撫でしていくのを見つめながら、銀時は苦笑する。
 後ろの新八がため息するのを、銀時は痛い胸で聞いていた。
「あの、銀さん」
 後ろからの声に、銀時は足を止める。
「あー? なに」
 振り返ると、新八が神妙な顔をしていた。ドキリ、と胸が縮こまる。
 まさか。恋の悩みを打ち明けるつもりだろうか。
「あ……あの」
「………」
「…なんでも、ないです」
「は?」
「すいません。やっぱりいいです」
「……ふーん」
 気にしていない振りをして、再び歩き出す。
 銀時の心臓は早鐘のように鳴っていた。緊張のせいで頬がぴくぴく動く。
 新八は何を言うつもりだったのだろう。
 緊張と不安で目が回りそうだった。
 銀時を動揺させたのは、新八の表情にも理由があった。
 振り返ったときの新八は顔を赤くさせて、目に力が入っており、いかにも「何か重大なことを言うぞ」という感がありありとしていたからだ。
 後ろの新八に見えないことをいいことに、銀時が泣きそうな顔で息をつくと、
「銀さん……っ」
 思いつめた声で、再び名を呼ばれた。
 銀時は吸った息を思わず飲み込んでしまった。
「な、に」
 今度は足を止めずに首だけで振り返る。
 新八が歩みを止めているのをみて、少し離れて止まった。
 今度の新八の顔は、先ほどより強張っていなかった。しかし、目のあたりを赤くさせて、緊張した面持ちで銀時を見ている。
「なんだよ」
「あ、の。……えっと、あ……あの…」
 新八は言葉が見つからないのか、ぱくぱくと口をあけたり閉じたりを繰り返す。
「……なんでもありません」
「………」
 なんじゃそりゃ。
「あの……すいません。なんでもないんです」
「……そう…」
 顔を赤らめてうつむき、もじもじする新八を見つめながら、銀時の心には淋しさとも愛しさといえる感情がわいていた。
 踵を返して先を進む。後ろに新八の足音がついてきているのを確認して、銀時はフッと苦笑した。
 新八が言おうとしているのは、恋の悩みで間違いないだろう。
 言い難さをこらえて必死に話そうとしていた新八を思い返して、銀時は愛しさを噛みしめる。
 次に声をかけてきたら、構えずにちゃんと新八が話せるようにゆっくり待っていてやろう。そして、新八にあんな顔をさせる相手を聞いて、ちゃんと相談にのって、ちょっとからかいながらその恋を応援してやろう。
「………」
 ――って、できるかァァァ!
 好きな相手の恋など応援できるか! 大人気ないといわれても知ったことか。思いっきり邪魔してやる。
 そうでもしなければ、苦しくて、痛くて、たまらない。
「銀さん」
 呼びかけと共に、手を取られた。
 その瞬間、ビリビリッと電流が体を巡る。驚いて震えながら引かれた手と一緒に振り返る。
 緊張のせいなのか、新八の手はとても冷たくなっていた。
「好きっ、ですっ」
 銀時は一瞬ぽかんとして、魂が抜けるほど驚いた。
 かあっと全身に血が巡ってくる。
 大きく見開いた目で新八を見ると、告白した当人も同じような顔で銀時を見上げている。
「…え、えっ、ええええっ?」
「あっ、あっ、ちっ、違くてっ!」
「違うのかよ!」
「いや、あのっ、違わないけど、あの……っ」
 先ほどと同じように新八は口をぱくぱくさせると、とたんに真っ赤になってうつむき、掴んでいた銀時の手を熱いものをさわったように離す。
 銀時は買い物袋を持つ手をぎゅっと握りしめた。
「……新八」
「……もっと、格好良く…告白するって、いろいろ考えてたのに……」
「え……考え事って…」
「……いつ言おうとか…なんて言ったらいいのかって…」
「……俺のことだったのか…」
 新八がこくりとうなずく。
 今まで新八が悩んでいたのがこれだというのか。自分に告白する手順を考えていたのか。あのため息は自分のものだったのか。
 はああ、と新八は深く息を吐き、覚悟したように顔を上げた。
 凛々しく真っ直ぐな目に見つめられて、銀時は体が固まる。早くなった心臓の音すら聞こえない。新八に集中していた。
「銀さんが、好きです。ずっと好きでした」
 照れ隠しなのか、新八はメガネをくいっと上げる。そして、やっぱり耐えられないといったように目をそらしてうつむいた。
 銀時はわなわな震えている体が、くにゃくにゃと崩れていくように感じた。足元から火の柱が立ち昇って、そのおかげで立っているかのようだ。
 とにかく、体が、顔が熱い。
 銀時は感激に目が回りそうだった。嬉しさに胸がはちきれそうで、思わず口角をあげてへへっと笑う。
 銀時の様子に、新八が目だけで見上げてくる。
 そのしぐさに新八への想いが溢れ、銀時は恥ずかしくて目を合わせることができなかった。
「……お、俺も…」
 銀時が言ったとたん、新八が太陽のような笑顔を浮かべた。銀時の心にあたたかいものが湧いてくる。
 もうたまらない。幸せをかみしめて、ニヤけてしまう頬を銀時は引き締めるが、どうにも止められない。
「……実は知ってました」
 新八が得意そうに笑う。
「え、知ってましたって……え?」
 銀時が驚くと、新八は照れくさそうに笑って、銀時の左手を取った。そして、不思議がる銀時をよそに、その指に口付けする。
「!」
 銀地は目を丸くした。
 あわてて銀時はその手を胸元に引き寄せる。
 悪戯小僧のように笑う新八を、銀時は瞬きをくり返しながら凝視した。
「なっ、なっ、おまっ……!」
 言葉が出てこない。
 昨日のあれに気づいていたのか!
 新八は肩をすくめると踵を返し、定春をつれて走ってゆく。
 遠くなるその背中を見つめてながら銀時はぶるりと震えて、矢が刺さった胸を押さえてうつむいた。
「……っ」
 なんてこった。ちくしょう、あのメガネ。
 どんなに悪態をついても、今の新八にはかなわない。
 銀時は頭を抱えると、へなへなとしゃがみこんだ。