銀新/背中/銀魂
自分が何を期待しているのかまざまざと見つけられたような気がして、新八は消え入りたい気持ちになった。自分を蔑みながら再び寝返りを打ち、銀時に背を向けた。
足を折り曲げ、丸くなる。
心の準備ができていないと言いながら期待して、相手が引くと淋しがる。卑しい自分が恥ずかしい。
眉間にしわを寄せて、これ以上考えたくないと無理やり眠ってしまうことにする。先ほどやってきていた睡魔を探して、意識を深みにもぐらせた。
だが、その時だった。
背後から衣擦れの音がしたと思った刹那、新八の布団の端が開かれた。
入り込んでくる外気に、えっと新八が声を上げて振り返ろうとすると、背中があたたかいものに覆われる。言わずもがな、銀時だった。
「銀さんっ?」
銀時の腕が前にまわり、抱きしめられる。背中にぴったりと銀時が張り付いて、新八はその温かさを感じる余裕もなく硬直した。
いったい、何がどうなったのか把握できない。なんで、どうして、と意味のない疑問ばかりが頭に回る。混乱していた。
新八のうなじに銀時の息がかかる。大きくない新八の枕に銀時も乗せているのだ。新八は瞬きを繰り返し、短い息を繰り返し、肩を震わせていた。
「……新八」
かすれた銀時の深い声に新八の体がはねる。
「……あんな声で呼ばれたら黙って寝てらんねーよ」
耳のすぐ後ろで聞こえる銀時の声に、震えがとまらない。
「……お、起き、起き……」
ただ背後から抱きしめられているだけなのに、横になっているというだけで物凄く恥ずかしい。頭の中に今の自分たちの姿が浮かぶと、顔から火が出そうになる。
新八のうなじに銀時が顔を寄せた。新八は体を強張らせる。大きく息を吸って、ゆっくり吐く銀時の息が寝巻きの襟から背中に入ってくる。思わず声が出そうになって慌ててこらえた。
「……新八…」
「……っ…」
腰を抱いていた銀時の手が新八の胸元に移動する。何だ何だと思っていると、その手が懐にすべり込んできて新八の肌に触れた。
「あッ」
いささか冷たい銀時の指先が胸を撫でて、緊張で固くなった乳首にたどりつく。
「っ、銀さんっ」
慌てて身をよじって逃げようとしたが、銀時の指はさらに追いかけてくる。
弾力のある突起を銀時の二本の指がはさむ。さらさらと撫でて遊び、新八が声にならない声をあげているのを笑うかのようにつまんで引っ張った。
「やっ、やだ……っ」
枕に顔をこすり付けように嫌々と首を振る新八を無視して、器用な指は先端を爪で掻く。
「アッ…ァ、ぁ…っ」
引っ張っては、引っ掻いて、こねて遊ぶ。指のしつこい悪戯に新八の体は不穏な炎をともし始めた。
熱い唇に耳たぶが食まれる。新八は瀬をそらせて息をのんだ。
銀時の息と濡れた舌が耳朶を噛んで愛撫し、尖らせた舌が耳の穴に入ってくる。唾液の水音と、銀時の深い声のする息が直接脳に響いて、新八の男に熱がたまる。
「…んっ、んっ……っ」
新八は高い息の抜けた声が出そうになるのを必死でこらえた。
銀時に触れられた場所が、舐められた場所が熱くて、体中の血液が沸騰しそうだ。頬は紅潮し、漏らす吐息は甘い色に染まっていた。
銀時の手が胸から離れる。名残惜しさに淋しさを感じたが、銀時の手が今度は下腹にふれた。
銀時の大きな手が寝巻きの上から新八を撫でる。先走りで少し濡れた下着の気持ち悪さと、銀時にはっきり形をとらえられたことが恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。
布の上からこすられてただけで、新八の男はぐんぐんと成長していった。銀時の手が陰茎から少し離れて、ゴムの浮いたところにかかる。
「あっ、ダメ!」
新八は拒むが、有無を言わさず銀時は下着の中に滑り込んだ。
乳首と同じように、中指と薬指の間に新八は挟まれ、指の股で軽くこすられる。初めての人の手の感触に新八は身震いし、それだけで達しそうになる。
今、銀時に握られている。考えたくないのに頭にそのイメージが浮かんで、新八は羞恥に泣きそうになった。ぎゅっと目を閉じる。
指の側面で普段は皮のかぶっている柔らかいところをいじられて、新八が首を振ると、今度は陰茎をしっかり握られて上下にこすられた。
「あああっ……あっ、あっ」
自慰のときとは全く違う快感が背筋を走って、新八は酸素を求める。
銀時の体温に新八の体温が混ぜ合わさって、溶けてしまいそうだ。熱い。熱くてたまらない。自由な手で新八は布団を払う。
冷たい外気に触れる肌や、銀時にむき出しにされた中心が薄暗闇に湯気を発しそうだった。
「……っ…ん、んんっ…アッ…」
銀時の指が先端の割れ目を舐めるようになぞる。溢れた先走りを指で叩き水音を出していじめられると、新八はたまらず悶えた。
「……新八…」
かすれた銀時の声が新八の腰をビクビクとさせる。
耳やうなじにかかる銀時の吐息は熱く、新八と同じように乱れていた。新八の尻には銀時の硬く熱い情熱が押し付けられている。
銀時も昂ぶっている。この自分の体をさわることで。
新八は言い表し難い興奮に襲われ、胸が激しく波立つのを感じた。激しくのどが渇く。
耳への荒々しい息。乱暴な手。押し付けられたら熱。
背中に感じる、とけてしまいそうな体温。
心臓の音が、自分のものか銀時のものなのかもわからないほど近い。
「あっ、あッ銀さんっ、ぎんさんっ」
「……新八…っ」
感情の熱が高まり、握られた陰茎がぐぐっとさらに硬度を増す。
「うあっ……うっ、う……ぁ…」
ぴちゃっぴちゃっ、という音が遠くに聞こえた。
力を入れたまま止めていた息を短く何度も吐いて、ゆっくり体を弛緩させていく。
銀時の手に出してしまったことや、みっともなく喘いでしまったことなど、恥ずかしくて顔を合わせることができなかった。
性を吐き出しても、銀時が触れた体の熱は収まりきらず、新八は紅潮した顔を隠すように枕に伏せた。
手を拭いている気配の銀時が、再び新八に覆いかかる。怯えからか期待からか、新八の体は震えた。
うなじの辺りに優しいキスがおりた。
「……悪ぃ…」
好きだと呟くような声音が聞こえると、襖を開ける音がし、銀時が出て行った。
焦点の定まらない目でぼんやりと畳の縁を見つめる。
銀時の手の熱さや、乱れた息を反芻してごくりとのどを鳴らした。たまらず、まだまだ熱い感情を吐息にする。
銀時はどこに行ったのだろう。ぼうっと考えながら、尻に当たっていた感触を思い出す。
瞬く間に再度赤面し、新八はたまらず両手で顔を覆った。
背中に銀時の熱が残っていた。