銀新/背中/銀魂
それから、ソファに並んで座って二人でテレビを見た。
お通が番宣ででていた番組が終わると、神楽から録画を頼まれていたサスペンス劇場が始まった。
始めだけちょっと見るつもりが、展開が気になって見ているうちに最後まで見てしまった。物悲しいエンディングが流れる中、二人はじゃんけんをした。
風呂洗いの勝負である。
文句をたれながら風呂へ行く銀時を見送って、新八はパチパチとチャンネルを変える。
すると、再びゲストのお通を見つけ釘付けになる。
闘う歌姫、ダイナマイトお通とした活動していた時期があったお通は、その突飛な経歴からか格闘技番組のゲストによばれるようになっていた。
どこか長谷川の声に似ているナレーターがゲストの紹介をする。アップで映されたお通は笑顔で手を振り、来月発売のCDと明日の出演番組の宣伝をしている。
新八の頬があがる。
リンクがメインの番組なので、ゲストが映るのは始めだけでほとんど声だけということが多いが、この番組ではリング横で観戦しているお通がよく映っていた。
「新八ぃ。俺、先入っていい? あれ? お前プロレス見てんの?」
「いえ、お通ちゃんを見てます」
新八はテレビから目をそらさずに言う。
「珍しいと思ったらそういうことかよ」
「あ、お風呂、先にどうぞ」
「……一緒に入らね?」
「はっ、入りませんよっ」
いつになく甘い恋人のような銀時が恥ずかしくて、ばか、と呟いて赤い顔を隠すようにテレビに視線を戻す。銀時がおかしそうに笑っていたが無視した。
銀時が風呂に消え、しばらくして上がってきても、新八はそのテレビを見続けていた。
「お前、本っ当に好きな」
あきれた声だ。
「……さすがにプロレスは飽きてきました。お通ちゃんあんまりしゃべんないし」
「ふーん」
銀時がそっけなく言うのが、どこかすねているように見えて、新八は思わず、ぷっと噴出してしまう。
「いやいや、勘違いすんなよ? 別に妬いてるとかじゃねーから」
「わかってます」
「いや、本当に。銀さん大人だからね」
「なんで抱きついてくるんですか」
「……お前が寒かろうと思って」
「確かに、湯上りだけにあったかくて気持ちいいですけど」
「気持ちいい? おまっ、気持ちいいってなんだよ。新ちゃん、やらしい」
「ちょ、ちがっ、気持ちいいっていうのは心地いいって意味です!」
「いやー、やらしいなぁ。新八くん。どこがどう気持ちいいんですかー。さすが十六歳」
「なんだよ! アンタのほうがやらしいじゃないか!」
ニヤニヤ笑う銀時に、新八は真っ赤になってポカポカと殴った。
「ほら、お通ちゃん。お通ちゃん見んだろ?」
「…もういいです。銀さんの好きなの見ていいですよ。お湯が冷めないうちに僕もお風呂いただきます」
テーブルにあったリモコンを渡す。
銀時は大きなあくびをしながら、パチパチとボタンを押してチャンネルを変えていく。
「んあ。テレビもいいけど、そろそろねみぃなー」
「あ、布団敷いておきますね」
「おう。悪ぃけど、先寝てっかも」
と、もう一度あくび。
「ああ、はい。今日、朝早かったですもんね」
新八は笑って和室に向かう。新八用に借りている箪笥の引き出しから下着などの替えを取ると、押入れから布団を二組下ろす。
銀時と自分の分を敷いて、一瞬その距離に悩んだがいつもどおり少しあけた。
体を洗って湯につかると、冷えていたからだがじわじわと温まってくる。ふう、と大きく息を吐いて、新八は台所でのことを思い出した。
台所であんな深いキス。今までしたことがない。今日はやけに銀時が優しくて、甘えてきて、新八はどぎまぎしてしまう。
――銀さん……本当はしたいのかな。
ふと、キスしたときのぞくぞくした浮遊感を思い出して、思わず吐息が漏れる。照れくささをごまかすように濡れた手で顔をこすった。
――やっぱり、男同士って痛いのかな。痛いよな、絶対。
でもあのキスのように、気持ちよかったら流されてしまうかもしれない。
もし、銀時が強引に迫ってきたらきっと自分は拒めないだろう。でもやっぱりこわい。こわいけど、でも。ああ、でも。
再び頭に悶々が駆け巡り、新八はあわてて湯から出た。
少しのぼせたのか、ふらふらしながら寝巻きを着て、歯を磨き、髪をかわかす。
なんとなく戻りづらくて、何度か逡巡してしまう。いつもは気にしないのに、どこか変なところはないか鏡で確認する。歯の磨き具合を調べるために口を左右に開いているところで、そんな自分と目が合い我に返った。
頬を赤く染めて居間に向かう。
居間は無人だった。
銀時はもう寝たのだ。体を何かがすうっと落ちていく。夢から覚めたような気分に、ははっと笑う。
「………」
ソファにどっかり座って、冷蔵庫から持ってきた麦茶をコップにそそぎ、のどを鳴らす。ぷはあと息をして、テレビをつけて、すぐに消す。
時計を見るともう0時をとっくにすぎていた。時間を知った途端、眠気が急に襲ってくる。
冷蔵庫に麦茶のボトルをしまうと、ゆっくり和室への襖を引いた。
和室はオレンジ色の豆電をつけたままだった。銀時が気を使ってくれたのだろう。忍び足で布団に近づき、紐を引き明かりを消して布団に入る。湯上りの火照った体に、布団の冷たさが気持ちいい。
新八は天井に写る光の影をぼんやり見つめた。たまに大きく流れていくうすい明かりは車のベッドライトが反射したものだろう。
隣からは静かな寝息が聞こえていた。
新八も目を閉じる。静かな暗闇が広がる。
銀時の寝息に耳をすませる。目を閉じたまま隣に神経を這わせる。
寝返りをうって銀時に向き、目を開けた。暗がりにぼんやり見える白い髪。盛り上がった布団。
銀時は新八に背を向けて眠っていた。
――本当に、もう寝ちゃったんですか。
――本当に、何もしないんですか。
「……銀、さん……っ」
呼ぶ声の音に驚く。赤子が母を求めるような声だった。