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銀新/チョコレート/銀魂

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二度目のほうがむずかしいのだ。





 

「銀さん、いつの間にこんなの入れたんです」
 新八の声はいらだちを含んでいた。
「ん? それうまそうだろ」
 会見の済んだ商品をエコバッグに移しながら銀時は笑う。
「もう、今月かつかつなんですからね。余計なもの買わないでください」
「馬鹿やろう。この世に余計なモンなんて…ねぇよ」
「カッコつけていいこと行ってるつもりなんだろうけど、買ったのアンパンマンのチョコレートだからな。格好良くねーよ」
「この笑顔で僕を食べて!って言ってんだよ。俺がチョコ食べたいのわかってんだろうな。さすがヒーローだよ」
 新八はもう、と苦笑すると、最後の肉のパックを入れた。
 バッグをひとつずつ持って店を出る。
 外はまだ暑いが、すでに秋の気配がしていた。空は青く、日差しはきついが、風がさらりとしている。来週にはもっと涼しくなるだろう。
 傾き始めた太陽を背に二人は家路を並んで歩く。
「なんか、日が暮れるの早くなったよなぁ。四時ってもっと明るかったよな。なんか空が黄色い気がする」
 銀時は空を見上げながら言った。
「ああ、そうですね。ちょっと前までは七時ぐらいまで明るかったりしましたよね。最近、夜は虫がうるさくなってきました」
「まだ九月入ったばっかじゃん。今でこんなに秋感じてたら、来月どんなんなの」
「何度も秋は経験してるはずなんですけどね。季節がめぐると忘れちゃいますよね」
 そうだなと二人で笑う。
 助手であった新八が恋人になってそろそろ一ヶ月がたつ。自分の想いが受け止められて、しかも向こうからも返ってくるとは思っていなかったから、いざ付き合うことになったとき、自分はなんと都合のいい夢を見ているのだろうと思ったりもした。
 こんなに年の離れたうぶな相手と付き合うことなど今までなかったから、何もかもが新鮮だった。何もかもに胸が騒いだ。
 初めてキスをしたときは、この世にこんなに甘くてやわらかいものがあったのかと感動した。
 新八は顔を真っ赤にさせてうつむき、恥ずかしいのか目を合わせようとしなかった。可愛くて、可愛くてたまらなかった。
 大事にしたい。大切にしたい。新八を幸せにしたいと思った。
 銀時は横目で新八をちらりと見やってすぐに目を戻し、隠れてため息をついた。
 もう一カ月たつというのに、まだ一回しかキスしていない。初めてのキスであんなに照れてる新八を見て、宝物のように大切にしようと思ったが、これでは大事にしすぎだと思う。
 隣でお通ちゃんの秋ライブの話をしている新八にあいづちを打ちながら、銀時の頭の中は新八とのキスでいっぱいだった。これでは片思いの時と変わらない。付き合っているのだから、したいときにすれば良いだろうと自分でも思うが、なかなかそういうタイミングに恵まれず今まで来た。
「物販が楽しみなんですよ。最近お通ちゃんも人気出てきたから、売れ切れの商品が出たりして。親衛隊隊長として買い逃しなんて絶対できるはずないじゃないですか」
「ふーん」
「幸い人数はいるんでね。いつも人海戦術ですよ」
 限定Tシャツよりお前の手の握り方を教えてくれ。こんなことをいつも考えていることも、新八は知らないのだろう。
 エンジンを鳴らして背後から抜かしていったタクシーが前方で対向車とすれ違い、遠くなっていく。そろそろかぶき町も動き出す時間だ。この道も交通量が増えるのだろう。
 再び後ろから自動車の音がした。銀時が振り返ると、新八も同じように振り返った。車を避けるように新八のほうに身を寄せた。
 ふと、手の甲が触れ合った。
 あ、と銀時は新八を見つめたが、新八はこちらを見ようとしなかった。新八は急に黙り込んで、すたすたと歩く速度を速めて行ってしまう。あわてて銀時は追いかけるが、新八は振り向かない。その耳が赤くなっている。
「………」
「………」
 二人の間に甘いような苦いような空気が漂う。
「新八」
 そそくさと先に行ってしまう新八の袖をつかむ。銀時が足を止めると新八もそれに倣った。
「……す、すみません」
 新八はあらぬ方を見ながら言った。
「なんか、恥ずかしくて……」
 銀時の心が浮き立った。
 新八が自分を意識している。嬉しくてたまらない。にやついてしまう頬を抑えて平静を保つ。
 銀時は新八の肩に手を置いた。
「新八……」
 あたりに誰もいないのを確認し、顔を寄せながらキスしてもいいかと銀時が問おうとすると、新八の体がすうっと離れた。
「え」
 新八は銀時の手から逃げると踵をかえす。
「おっ、往来ですよっ」
「え、あ」
「もうっ。早く帰りましょう。アイス、とけちゃいますよ」
 赤い顔で鼻にしわを寄せて言うと、再び歩いて行ってしまう。
「お、おい、待てって」
 はっとして、銀時はその背中を追った。
 再び隣に並んで歩き始めると、新八は何事もなかったかのように先週の花火大会の話を始めた。姉に相手にされない近藤の話を、銀時は先ほど以上に上の空で聞いた。
  新八と付き合い始めて一ヶ月。
 その間、恋人らしいことができたのは始めの一週間。キスをしてからは、相手をすごく好きでたまらないという態度をとるのが気恥ずかしくて、今までの距離と変わらない日々を過ごしてきた。
 この一ヶ月の間にあった新八の誕生日も何もなし。プレゼントを贈りはしたが、去年と同じもの。泊まっていくかと思ったが、新八は妙が待っている家に帰った。
 それでも、何度かはいい雰囲気になったことがある。だが何をどうすれば、とぐるぐると銀時が煮詰まって、結局キスすらできず雰囲気は流れた。
 新八もキスすらしない自分に焦れているだろうと思っていた。自分ばかり相手を想いすぎていると思いつつも、新八もそれなりに自分を求めているのだと思っていた。
 銀時はあたりを見まわす。先ほど確認した通り、誰もしない。しかし、往来でのキスはさすがに断られても無理しなかっただろう。それは理解しているのに、理解しているのに銀時の心にはうす暗いものがあふれて止まらなくなっていた。
 もしかして、新八はもう自分のことなど好きではないのかもしれない。そんな考えが浮かんで消えなくなった。

作品名:銀新/チョコレート/銀魂 作家名:ume