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Family complex -ゲームをした日(仮)-

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Family complex


-ゲームをした日(仮)-







「今日のお帰りは何時頃になりそうですか?」
玄関で、昨日と同じように靴を履いたルートヴィッヒに、ランドセルを背負わせてやりながら、菊が問いかけると、「ありがとう」と言った彼は少し考えてから小さな桃色の唇を開く。
朝の慌ただしい時間ではあるが、ルートヴィッヒは実に優秀で、まだバスの時間には15分もある。バス停までは5分だから、ゆっくり行っても十分に間に合うだろう。
「今日は5時間目までだから、4時くらいだと思います」
しっかりとした口調は、子供にしては固い。世話をかけないようにとの彼なりの精一杯の配慮なのだろう。
「そうですか、ではおやつを用意して待っていますね」
一緒に外に出ると、空は綺麗な青だった。
彼は見送りは不要だと言ったが、馴れるまでは心配なので菊もバス停まで付き添うことにしている。
携帯の番号も交換したし、道順を書いた紙も持たせたから心配はないだろうが…しかし、こんな小さな成りで、あんな距離を行くと思うと気の毒でならない。
それに子供にとっては、環境の変化というのは思ったよりも強い影響を与えるものだろう。
ルートヴィッヒは一生懸命に馴れようとしているが、まだ不慣れで緊張感を隠せていない事も多い。
「夕飯は何が食べたいですか?」
せめて今夜は好きな物を作ってやろうと、菊が隣りの小さな身体に尋ねると、ルートヴィッヒは「菊さんの作るものなら何でもいいです」と言った。
そこにちょうどバスが到着し、「行ってきます」と言って彼はバスに乗り込んで行く。
「行ってらっしゃい」
どうやらこちら側の窓際の席が空いていたらしい。座った彼に手を振ると、ぺこりとお辞儀をして返された。
そのうちにバスが発車し、それを見送った菊は家に戻る為に踵を返す。
(何でもいいです、…か…)
先ほどのルートヴィッヒとのやりとりを思い返して、何となく寂しく思う。
子供ならば、当たり前に食べたい物や好きな物があると思うのに、遠慮しているようだ。
しかも、その前に「菊さんの作るものなら」なんてお世辞を付けるのがいじらしいではないか。
まだまだ甘えたい年ごろで、家族と離れてとても寂しいだろうに、彼の心を思うと切なくて菊は一つため息をついた。
どうしたら、ルートヴィッヒはもっと心を開いてくれるのだろうか。
1ヶ月も一緒にいるのに、余所余所しいのは忍びないし寂しいと思うのだが。


**


「ただいま」
玄関の戸が開かれる気配と声を聞いて、書斎にいた菊は顔を上げた。
「おかえりなさい」
そういって迎えに出ると、どこかはにかむようにもう一度「た、ただいま」という顔が可愛らしい。
「おやつがありますよ。部屋に鞄を置いたら居間にいらっしゃい」
そう言うと、ルートヴィッヒは礼儀正しく「はい」と言って寝起きしている客間へ歩いていった。


「はい、どうぞ」
ルートヴィッヒの前にホットケーキが2枚乗った皿を置いて、菊は少し笑ったように見えた。
「い、いただきます…」
とろりと溶けたバターがとても美味しそう。いいにおいだ。
ナイフとフォークで8つに切って、添えられているメイプルシロップをかける。そのひとかけを一つ口に運ぶと、ふわふわで甘い味が口の中に広がった。
(おいしい…)
目の前でそれを見ていた菊が「美味しいですか?」と尋ねるので、ルートヴィッヒは頷く。
すると菊は「良かった」と、もっと笑った。
今度ははっきりとわかった。
初めてこの家に来た時、最初は菊の表情があまり変わらなくて、もしかして怒っているのかと不安になった。
けれど二日が経って、表情が変わらなくても菊は怒っている訳ではないし、それどころか、その目を見るともしかして笑っているのではないかと思う場面もあった。
ギルベルトはもっと菊の表情が分かるようだから、もう少し一緒に居たら、自分ももっと分かるようになるのだろうか?
そんな風に思いながらホットケーキを頬張っていると、菊が「ルートヴィッヒさんはナイフとフォークが使えてえらいですね」と言った。
「?」
家では父や母も普通にナイフとフォークを使うし、むしろそう言われるのが不思議で思わず菊の顔を見ると、彼はふふ、と笑ったようだ。
「ギルベルトさんは面倒だって言って、いつもフォークだけで食べるんですよ」
そういえば、ギルベルトはいつもあまり丁寧に食べないから、一緒に食事をするときは毎回のように父や母に怒られている。
ルートヴィッヒは別にそれが嫌いではないけれど、もしかして菊は自分を褒めてくれたのだろうか?
「べ、べつに…うちではふつうだし」
嬉しいけれど、なんだかこそばゆくてそう言うと、菊は「そうなんですか」と目を少し細めた。