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Family complex -ゲームをした日(仮)-

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ルートヴィッヒがホットケーキを食べている間、菊はしばらくお茶を飲みながらそこにいて、今日あったことや学校の事をなんとなく話したりしていたが、食べ終わると「さて」と言った。
「そろそろ買い物に行こうと思うのですが、ルートヴィッヒさんは苦手なものはありますか?」
菊の問いかけに、ルートヴィッヒは首を振る。
今朝、学校に行く前も好みを聞かれたけれど、ここはよその家で自分はお世話になっている身だし、そんな我が侭を言ってはいけないだろう。
「本当に?」
眉間に皺を寄せた菊はずいっとルートヴィッヒに顔を近づけてくる。
「…はい」
じっと見つめられて思わず視線を外してしまってから、ルートヴィッヒは頷いた。
本当は、ルートヴィッヒにだって苦手なものはある。
ピーマンはすごく苦いから何かに入っているだけで嫌だし、甘いにんじんも好きじゃない。あと、グリーンピースもあまり。
目の前に座る菊はしばらくルートヴィッヒを見つめていたが、ふと何か考える素振りをしたかと思うと、おもむろに立ち上がって廊下へ消えた。
ルートヴィッヒが首を傾げているうちに、しばらくして衣擦れのような足音が戻ってきたかと思うと、部屋に入ってきた菊は腕に何か黒い箱のようなものを抱えていた。
そして、今度は何かのコードをテレビにつないだり、コンセントにプラグを入れたりしている。
(…?ゲーム?)
よく見ると、箱にはコントローラーが繋がっている。ゲーム機だろうか?
ルートヴィッヒの家にはないが、友達の家にはあって遊んだことはあるから、たぶんそうだろう。
「…よし、と」
菊はそう独り言を言うと、テレビのスイッチを入れた。
そして今度は本体を触っていたかと思うと、明るい音楽が流れてテレビにゲームの画面が浮かぶ。
「ルートヴィッヒさん」
「はい?」
「少し私につき合って頂けませんか?」
「え?」
「私とゲームで勝負をしましょう」
「あの…?」
ルートヴィッヒは、突然の菊の行動に戸惑うように、ゲーム画面と菊の顔とを見比べている。
菊は素知らぬ振りで、コントローラーの片方をさし出した。
「負けた方の嫌いなものが入っている料理が、今夜の晩ご飯です」
「!」
思わぬ言葉にルートヴィッヒが目を丸くする。
「私は何を隠そう、ナスが大の苦手なんですよね。だから、私が負けたら今夜は麻婆茄子です」
菊はそう言いながら、テレビ画面を見てコントローラーを操作し、ゲームの準備を整えているようだ。
ルートヴィッヒは驚いた。
菊は大人でなんでもできるように見えるのに、嫌いな食べ物があるなんてびっくりだ。
「ルートヴィッヒさんの嫌いな食べ物は?」
横を向いた菊にそう聞かれて、ルートヴィッヒは躊躇った末に恐る恐る口を開いた。
「…ピーマン」
そう言うと、菊は少し笑って「では、ルートヴィッヒさんが負けたら青椒肉絲ですね」と言った。
青椒肉絲はたしかピーマンが沢山入っている料理だ。
できれば食べたくないから、これは負ける訳にはいかない。
「ま、負けないぞ…!」
そう言うと、菊はふふふ、と声を出して笑って、「私もですよ」と言った。
気のせいかもしれないが、その顔がとても楽しそうに見えて、ルートヴィッヒは思わずその顔をまじまじと見つめる。
なんだか急に、菊がすごく身近な人に思えてきたのが不思議だった。