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Family complex -ゲームをした日(仮)-

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夕飯の準備の間に風呂が沸いたので、菊は「お二人でゆっくり話し合っていらっしゃい」と、渋る二人を一緒に風呂に押し込めてみた。
半ば賭けではあったが、短気で怒りっぽいけれど、引きずらないのがギルベルトの良いところでもある。
幸い予想は的中したようで、外に出てきた時にはすっかり二人の間の険悪な雰囲気はなくなっていたので、菊は胸を撫で下ろした。
これからルートヴィッヒが帰るまでまだ3週間もあるのに、家の中が険悪なのでは居たたまれないし、なによりルートヴィッヒが気の毒だ。

「なあ、なんかつまみあるか」
結局ハンバーグとなった夕飯を済ませ、菊が台所で洗い物をしていると、ギルベルトがそう言って中を覗き込む。
ルートヴィッヒはと聞くと、もう眠ったのだという。
「そうですね…簡単でよければ何か作りましょうか」
「頼む」
頷いたギルベルトは、冷蔵庫からビールの缶を出すと食卓に座った。どうやら今日はテレビのある居間ではなくこちらで飲むらしい。
珍しいなと思う菊の背中ごしに、缶を開ける小気味良い音がした。

「…なあ」
つまみを出して、菊がまた洗い物に戻ると、ギルベルトが椅子から立ち上がる気配がした。
そして菊の方へ向かってきたかと思うと、おもむろに背中に抱きつかれる。
「はい?」
「…なんでもねえ」
そう言いながら抱きしめる腕を離そうとはしない。
ギルベルトは菊の髪に頬を擦り寄せるようにして、しばらくそうしていたいようだった。
腕は動くものの、この体勢では動きづらい。なんとなくその腕を振り払うのも躊躇われた菊は、そっと水道の水を止めた。
家の中はしんと静まり返って、ただ時計の針の音だけがしている。
「なあ、怒ってんの」
ふいに小さい声で問われて、菊は苦笑いを浮かべた。
おそらくさきほどのルートヴィッヒとの喧嘩のことを指しての言葉だろう。
さすがに、小学生相手にあれは大人気ないとは思うものの、怒りとは少し違うので「いいえ」というと、彼はどこか許しを乞うようにまた髪に頬を擦り寄せてくる。
まったく、そんなに反省しているのなら最初から大人な対応をすればいいものを。だが実際はそう上手くはできないのだろう。
まるで子供のような仕草に菊が密かに苦笑していると、「…お前ら、いつの間に仲良くなってんだよ」と小さい声が言った。
「ふふ、やさしくて、賢い良い子ですね、ルートヴィッヒさんは」
布巾で濡れた手を拭い、後ろを振り返るようにすると、ギルベルトが唇を寄せて軽い口づけが降ってくる。
菊は後ろを振り返る体勢のままでそっと首に腕を回した。
擦り寄せられた身体から、ふわりと石鹸の良い匂いがする。
「ありがとうな」
合間に囁かれたそれは、何かとても深い響きを持って菊の心を揺らしていった。



しばらくそうして唇を合わせていたが、ギルベルトの手が身体を弄り始めて、菊は我に返った。
「…あの、そろそろ離れてくれませんか」
「なんで」
菊がそう言っても、ギルベルトは一向に腕を離そうとしない。
「なんでって…」
菊が言い澱むうちに、今度は耳を舐められる。変な声が出そうになって、菊は寸でのところでそれを堪えた。
それに気を良くしたか、ギルベルトは服の合わせ目から手を入れてくる。
「もうアイツ寝たぜ?」
前回抱き合ってから、もうかれこれ10日以上は経っている。
その上、耳元へ低い声が落とされて、菊の理性はもう焼き切れる寸前になった。
けれど、客間にはあの子がいる。ギルベルトは寝ていると言うけれど、もし起きて来たりしたら…
その時、台所へ軽い足音が近づいてきて、菊は咄嗟に相手の足を踏んだ。
「てっ」
「菊さん」
腕が解かれるのと、ルートヴィッヒが台所へ入ってくるのとはほぼ同時だった。
「る、ルートヴィッヒさん」
まさか今のを見られたか…?
顔を引きつらせている菊を他所に、眠そうな目を擦ったルートヴィッヒはぼんやりした顔で「のどが乾いたから、水をください」と言った。



fin.




12.1.12 改訂