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Family complex -ゲームをした日(仮)-

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「た、ただいま…?」
電話をかけ直しても、まったく状況が掴めなかったので(二人共、オムライスでいい、ハンバーグでいい、と言って譲らなかった)、一先ず買い物を済ませた菊は、恐る恐る自宅の玄関を開けた。
家の中は不気味に静まり返っている。
買い物袋を台所へ置き、そーっと居間を覗き込むと、ルートヴィッヒはコタツの上で宿題らしきノートを広げ、ギルベルトはそれに背を向ける形で座り込んでいた。
「…あの?どうかなさったんですか」
この険悪極まりない雰囲気を見れば何かがあったのは一目瞭然だが、とりあえずそう声をかけてみると、先に顔を上げたのはルートヴィッヒだった。
「おかえりなさい」
「た、ただいま」
菊が取りあえず笑うと、彼も困ったように口の端を上げる。
「…あの、とりあえず今夜は二つ作りますから…」
オムライスとハンバーグを同時にというのは多少骨が折れるが、なにより家内の平和のためだ。仕方がない。
「だから!ハンバーグで良いっつってんだろうが!」
その時、ギルベルトが声を荒げ、また顔を背けてしまう。それを聞いたルートヴィッヒが何か言いたげに顔を顰めた。
「…え、あの、結局勝ったのはどちらなんですか?」
ルートヴィッヒに尋ねると、彼は躊躇った後に「…俺」と言った。
菊は首を傾げた。
「え? 引き分けとかではなかったのですか?」
そう問いかけると、ルートヴィッヒは少し気まずそうに首を振った。
「でも、兄さんが食べたい方でいいんだ」
菊は思わず目を見張った。
てっきり勝負がつかなかったか、どちらかが勝敗に納得しなくて揉めているのかと思ったのだが、どうやら勝負自体は決着がついていたらしい。しかもギルベルトが負けたようだ。
「俺が負けたんだから、ハンバーグでいいんだよ!」
ギルベルトは苛々を隠しもせずにそう言い放つ。
「…そういうことでしたか」
いい大人が小学生相手にとても大人気ないとは思うものの、しかしギルベルトの怒る理由が何となく掴めた菊は、ため息を一つ吐いた。
「とりあえず夕飯を作りますから、ルートヴィッヒさん、手伝って頂けますか」
そういうと、ルートヴィッヒは救いを見つけたかのように少し顔を明るくさせて頷いた。


**


「勝ったけど、俺、そんなにハンバーグ食べたい訳じゃないし、兄さんが食べたいならオムライスでいいんだ」
「そうでしたか」
「…でも、そう言ったら兄さんすごく怒って」
菊に並んで調理台に立つルートヴィッヒが、そう言って弱り切った顔でこちらを見上げてくるので、菊は苦笑した。
「ルートヴィッヒさんはお優しいのですね」
「そんなこと、ないけど」
菊が言うと、ルートヴィッヒはうなだれる。
やさしくて真面目なこの子は、どうやら家族であるギルベルトにまで気を遣ってしまったらしい。
相手のことを思い遣って優先できるのはもちろん素晴らしい事ではあるけれど、時にはそれが却って相手を不快にすることもあるということを、まだ知らないのだろう。
「…ルートヴィッヒさんは、どうしてギルベルトさんが怒ったのだと思います?」
やんわりと菊がそう聞くと、ルートヴィッヒは暫く考えた末に首を振った。
「わからない…」
弱り切ったように俯く姿が気の毒で、菊はルートヴィッヒに向き直ると同じ目線になるように屈む。
「では自分が勝負に負けた時に、同じようにされたらどう思います?」
「…」
ルートヴィッヒは、菊の瞳を見つめ返して考えていたようだったが、しばらくして何か思い至ったのだろう。
俯いて、やがておずおずと小さく答えた。
「…うれしく、ない」
菊はそれ以上は何も言わずに微笑むと、ただそっとその頭を撫でた。