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トマトな小生意気 ~出会い編~

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「……そもそも、俺はヴェネチアーノに怪我させたい訳じゃねぇし」
「じゃあなんだったんだ、あれは」
 ずい、とトマトで汚れた上着をロマーノにも見えるような位置に上げる。ロマーノが腕に抱えた残りのトマトのうちの一つを右手に掴むと、俺の方に投げつけるような仕草をして見せた。何をするのかと思ったら、投げつけるようなどころじゃなくマジで投げつけてきた。受け止めると掌でぱしんと音がする。

「うまいぜ、それ」
「そういう投げ方ができるならイタリアちゃんにやってやれよ」

 相手に受け止めさせる事が前提の投げ方だった。歩きながらでも簡単に受け止める事ができるように、きちんと受け止めやすい位置を狙っていた。俺の手の中に移動したトマトは真っ赤に熟して、食べてくれとばかりに太陽の光を受けて輝いている。
「知らねぇよ! ヴェネチアーノ見てるとイラっとすんだよ。弟がいない奴には分からねぇだろこのヤロー!」
「分かんねぇな、俺様だったら弟がいたらとびきり可愛がると思うぜ。俺様に似てとびきりカッコいいだろうしな!」
 自慢の弟だぜ! 存在してもいねぇけど!
 ケセセセセ。笑いながら俺様に似て優秀でカッコいい弟を褒めると、ロマーノが不服そうな顔をする。
 なんだかんだ言ってイタリアちゃんの事が好きなんだろうなと言うのは分かった。イタリアちゃんにも本当はこうやって普通に美味しいトマトをお裾分けしたかったんだろう。スペインから離れてわざわざイタリアちゃんが働いている屋敷まで訪ねてきたのは、そういう理由のはずだ。
 お兄様はお兄様で一筋縄じゃいかない性格と見た。トマトを投げつけるくらいなら、兄弟喧嘩の一種なのかも知れない。イタリアちゃんが特殊なだけで、兄弟なんてこうやって喧嘩して成長してくものなんだろうか。
 本気でイタリアちゃんに危害を加えようと思っているならそんな気を起こせないようにしてやろうかと思ったが、そんな事をする必要は無さそうだ。良かった、イタリアちゃんのお兄様に酷い事はしたくない。
「ここだ」
 ふいにロマーノが足を止める。そうだろうとは思ったが、やっぱりオーストリアの野郎がよく使っている別邸だ。ロマーノと話をしたかっただけで、別にスペインにもオーストリアにも用事は無い。
「確認したかっただけだ、ここまででいい」
 え? とロマーノが振り向く。
「なんだ、俺様と離れるのが寂しいのか? 何かあったらベルリンまで会いに来れば少しくらいは相手してやるぜ」
「アホか。そもそも誰なんだよてめぇ」
 あぁ、名乗って無かったのか。それなのにちょっと脅されたからって親分のいる場所まで簡単に案内しちゃダメだろ、案内させた方が言う事じゃねぇけど。

「俺はプロイセン、名前くらいは聞いた事あるだろ、イタリアちゃんのお兄様」
「ロマーノだ、覚えろコノヤロー!」

 マジで口調だけは強気だな。スペインはこいつのどこを見て俺様に似てるなんて言ったんだ。
「ロマーノだな、覚えたぜ」
 当然だ、とロマーノが偉そうに答えてきやがった。イタリアちゃんとよく似た顔なのに、中身が違うだけでこんな残念な事になるんだな。イタリアちゃんの可愛さとは全然別種だが、こいつはこいつで結構悪くないかもしれない。
 じゃあな、とロマーノはスペインの方へ走って行く。多分スペインにもあの調子で懐いてるんだか懐いてねぇんだかよく分からねぇ態度をとってるんだろうなと思うと妙に微笑ましいような気持ちになる。あんな生意気なガキ相手に。
 次からはスペインの文句なのか惚気なのかよく分からない鬱陶しい話にもちょっとは頷いてやれそうだぜ。