トマトな小生意気 ~ファーストキス編~
ただ、俺に出来る範囲で大切にしてやるからそれで妥協しろ。
と言ってやるつもりだったのに、ロマーノが怒りだす方が早い。なんでだよ。
「は、誰がお前に俺と結婚しろなんて言ったんだよ、アホじぇねぇの」
心底呆れた口調で言われてさすがにイラっとする。
「いや言っただろ、責任とれって!」
「俺の恋人になれって言ったんだよ、なんで分からねぇんだよ!!」
「んな喧嘩越しで分かるか!!」
言いながらロマーノの顔が真っ赤に染まる。何が起きたんだ。いやもしかして俺はさっきロマーノから告白されてたのか。そんで今改めてもう一度。一気に理解してかっと体温が上がる。悪かった、ロマーノちゃん。でもきちんと言わなきゃ分からねぇよ。しかも命令形だったじゃねぇか、ものを頼む態度かよそれ。
「で?」
ロマーノが、真っ赤な顔で俺の方を見た。このクソガキのファーストキスを貰った、というか貰わされた責任をとって恋人になれって? このプロイセン様相手に不意打ちしかけた上に無茶苦茶な要求突き付けてくるとは、やるじゃねぇか南イタリア。
そんなもの、答えはJaだ。
※ ※ ※ ※ ※
こうして付き合う事になった俺とロマーノちゃんなんだが、この話には後日談がある。
ロマーノちゃんが帰って数日後、一仕事終えてロマーノちゃんとキスをした場所でもあるベルリンの自宅に帰宅すると、部屋中が真っ赤に染まっていた。
「は?」
俺は茫然と部屋の中を見回した。間違いなく俺の部屋だ。ただし、毎日使っているベッドはトマト塗れ。よく馴染んだ広めのテーブルもトマト塗れ。見慣れた天井も点々とトマトが散っている。ちょっと古くなったカーテンは、そろそろ変えねぇとと思ってはいたが、これもきちんとトマト色に染まってやがる。何事だ。
窓の閉じられた部屋はトマトの匂いが充満し切ってて気持ち悪い。それなりに広い部屋だが、トマトの量の方が圧倒的に勝っている。潰れたトマトが床の上に転がっていて、中に入ると踏み潰しちまって余計酷い事になりそうだ。真っ赤に染まった部屋のどこから片付けていいのかも分からねぇ。潰れたトマトの一部だろうが、ぐちゃりとした半固形が気持ち悪い。
それが全てトマトだという事は見れば分かる。分かるが、変色した部屋と転がる半壊した固形物は悪寒を感じさせるに充分だ。得体の知れない恐怖にかられる。
とりあえず窓を開けて換気をしようと、俺様は勇気を出して部屋の中に一歩踏み込んだ。ブーツの裏で何かが潰れる感触がした。ただのトマトだと分かっていてもいい気分じゃない。
勢いよく窓を開けと、新鮮な空気が流れ込んでくる。とりあえずこれだけでも少しはましになるだろう。
「……ん、なんか書いてある」
無地のカーテンが風にはためいて、ふわりと広がった。そこに見覚えの無い文字が書かれている。
『Advertencia』
警告、だと。
ご丁寧な事だ。これで俺様の部屋をこんな目に遭わせやがった犯人がすぐに分かる。
「……スペインの野郎!」
何を考えていやがる。あの貧乏人が食べ物無駄にしてる余裕があるのか。俺様がこんな訳のわからない目に遭わされる意味が分からねぇ。つーかロマーノか。ロマーノだろ。警告っつーのはロマーノに手を出すなって意味なんだろ、あの子分バカ! 手ぇ出されたのは俺様の方だっつーの!!
作品名:トマトな小生意気 ~ファーストキス編~ 作家名:真昼