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声が聞こえる

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声が聞こえる





声が聞こえる…。


「きみが悪いんだ…。わたしをおいて逝ってしまうから…。」


え?誰の声だ?思わずあたりを見回してしまう。

「何きょろきょろしているんだ?」
「あなた何か言った?」
「いや…。」

空耳か。う〜ん?声に覚えがあるんだけど。まいいか。


ん…。息苦しさに目を覚ますと首を絞められている。手を解こうとしても力が入らない。
もがいていると顔にほとほと落ちてくるものがある。涙か?
苦し紛れに手が何かに触れたのでそれを相手にぶつける。手が緩んだのを無意識に突き飛ばす。

少しでも離れようと咳き込みながらベッドから出ようとすると
「アムロ…。」
と腕をつかまれた。見ると頭から血が出てる。うわ…。やばい…。

「医者を…。」
「いいから洗面所に連れて行ってくれ。」
床を見るとスタンドが壊れて散らばってる。…スタンドだったのか。
足に力が入らなくてへたり込んでしまう。

「アムロ。わたしは何かしたのか?」
血を流しながら聞かないでくれ…。

「おぼえて無いのか…。」
「何か長い夢を見てたんだが…。」
「夢?」

ようやく立ち上がりかけらを避けながら洗面所に向かう。濡れたタオルで髪を拭いながら傷を見る。
 
「これ縫わなきゃ駄目だな。」
「きみのそのあざは?」
鏡を見ると首にあざが出来てる…。ありゃ…。

「包帯してからな。」
取りあえず傷口押さえて包帯を巻きおわると
「アムロ。」
と促される。

「あなたに首絞められてベッド際のスタンドで殴つた。」

目を見開いて絶句してる。手を伸ばしてあざと手を合わせてる。
体が引けないようにするのが精一杯だ。

「わたしがきみの首を?」
「泣きながら…。」
青くなってる。

「そんな馬鹿な…。」
「どんな夢見てたんだ?」

「夢?」
「そう。なにか夢を見てたんだろう?」

頭を押さえながら
「確かきみが死んでしまう夢だ。目の前で助けられなくて…。残された私はきみを捜し求めて時空を渡り歩く…。」

「時空?」
「どこの世界に行ってもきみを助けられない。いつも目の前で逝ってしまう…。」

なんつ〜夢だ…。

「苦しくてきみを恨むんだ…。恨みながら捜し求めて。死んでないきみを見つける。」

「そこで恨み百倍か?」
泣きながら首を絞める。

「きみが悪いんだ…。わたしをおいて逝ってしまうから…。」
なるほど…。

首をさすりながら
「この間その声を聞いたよ。」
「え?」

「それはおいといてこの始末はどうする?これは縫わなきゃ…。」
「ああ…。転んだでいいだろう…。」
信じるかなあ。この首は隠すとして。

「仕方ないな。ナナイさんを呼ぼう。寝ぼけたと言う話じゃないとすれば時間かかるんじゃないか?」
「寝ぼけたどころかまるで記憶に無い…。」

「連絡するから動くなよ。」
連絡を入れてお湯を沸かす。その間に湿布を探して首を冷やす。

喉つぶれてなくて助かった。痣が消えるまで包帯でも巻くしかないか。
洗面所を覗くと頭抱えて目を閉じている。

「痛いのか?」
「わからない…。」
「何?」

「どうして首を絞めたりしたんだ…。」手を取り
「さ、お茶でも飲もう。」と引っ張る。

「…酒。」
「傷に触るから駄目。」

包帯に血がにじんでる…。無理やり座らせてお茶を飲んでると
「きみは私が怖くないのか。」
と聞いてくる。

「俺が一番怖いのは自分だから。」
電話が来た。

「迎に行って来る。」
一人にするのはちょっと心配なんだが。ついでに医者を連れてきてもらった。

ボーつとしたまま大人しく治療を受けているのを横目に
「何があったんですか?」
「夜中に申し訳ない。ちょっと。」
キッチンに移動する。

包帯をとって見せると眉を顰めて
「うすく後残っていますね。」
「寝てる間に首絞められて。息苦しくて目が覚めたんだけどもう撥ね退ける力が無くて手に触れた物投げて、あの始末で。」

「何故そんな事に?」
「それが本人記憶が無いと言う。かなり落ち込んでるよ。」

「…血液検査をしてみます。暗示の可能性も調べてみましょう。」
「お願いします。」

「大尉は大丈夫ですか?」
「あ、あ。まさか殺気もなく首を絞められるとは思ってみなかったので…。それも泣きながら。」
「泣きながらですか?その上記憶に無いと。」
腕組んで難しい顔になる。

「面倒なことになりそうですね。」
「夢を見たんだそうです。」

「その夢の所為だと?」
「その可能性が高い…。」

「取りあえず医者と相談してみます。座ってください。巻き直しましょう。」
素直に巻き直してもらう。

「痛くないですか?」
「熱持ってますが、さほど。」

「今日はこのまま帰りますので後お願いします。」
「はは…。」

問題は奴がどう出るかで…。大人しく離れて良いものかどうか。
寝室に戻ると難しい顔して考え込んでいる。

「大丈夫か?」
「アムロ。」
「なに?」

こっちを見ないでじっと一点を見つめている。
「暫く部屋を分けよう。」
「言うと思ったよ。」

「すぐ準備させる。」
「それならおれは出て行く。」
相変わらず顔を見ようともしないで眼を瞑る。

「…きみがそう言うなら…。」
「厭きるまでの約束だから。おれに厭きたとはっきり言ってくれ。」

言おうとして口をつぐんでしまう。
「言えないんならあなたの言うことは聞けないよ。」

息をはいて
「わたしは怖いんだ…殺してしまうんじゃないかと…。」
「殺気があれば反応するから気にしなくて良いよ。そんなに簡単に殺される気はないから。」

「そういう訳には行かない…。」
「おれは気にしない。あなたも気にしないことだ。」
苦笑してやっとこっちを向いた。

「…無茶なことを言う。」
「おれは覚悟の上でいるんだから今側を離れる気は無い。逃げる気ならはっきり棄てていってくれ。二度と会わないから。」
「アムロ…。」

困った顔で言いよどむ。畳み込もうかと思ったが辞めよう。混乱してるのはお互い様だ。おれも頭冷やさないと。

「お医者さんは薬出してくれたのか?」
「ああ…。」
「じゃ大人しく飲んで寝ろ。水と氷持ってくる。」

薬を飲むのを見届けて傷口を冷やす。
「おれはここにいるから。」

枕元に椅子を持って来て座る。諦めたのか大人しく眼を瞑ると薬が効いてきたのか呼吸が深くなってきた。

寝付いたのを見てからこっちも毛布をもつて来てそのまま包まって椅子に座る。寝てる顔を見ながらボーつと考える。
当面は検査の結果待ちか。多分何も出ないだろうけど。

あの声…トーンが違うから気がつかなかったが確かに同じ声だな。
時空ねえ。信じろと言われれば簡単に信じないけど…。

パラレルか。他の時空のことまでかまってる暇ないんだけどなあ。
大体勝手に体使うな。簡単に使われるほうも駄目駄目だな。

もう来なければそれでいいけど多分また来るだろう。気を付けてればわかるかな?声と同じでトーンが違う。
暗いと言うか闇が濃い。荒んでる。おきていれば気がつくな…。寝てるときにこられると不味いか。
う〜ん。ま、そっちはどうにかなるか。
やはり問題は当人の精神状況か。目が覚めてみないとわからないな。
作品名:声が聞こえる 作家名:ぼの