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声が聞こえる

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目を閉じて椅子に身を預ける。直接来てくれる方が気が楽だが…。何が狙いなんだか。


寝てしまったらしく沈んでいた意識に何か触れた。ぞっとして飛び起きる。
何時の間に起きたのか上半身起こして離れようとしたおれの手を捕まえている。見たことのないような目で人を見てる。

いや直接見たことはないがこれは敵を倒すときの目だな。おれもこんな目をしているんだろうか。
掴まれてる腕が痛い。じつと見る視線が刺すようだ。

「あんた誰?」
「きみこそ誰だ。」
「人の体をのっとるような奴に名乗る気は無い。」

「これもわたしの体だ。アムロ。きみこそ違う。」
失礼な奴だな。名指しで否定するとは。

「では離せ。おれはあんたに用はない。」
「わたしにはある。」
強い力で腕ごと体を引っ張られ上半身を組敷かれる。

「わたしのアムロとどう違うのか確かめさせてもらおう。」
「冗談じゃない。」
スケベなのは同じか。おれ自身は割りとどうでもいいが後の事を考えるとこのままやられたんじゃ不味い…。

本気で逃れようともがくがびくともしない。片腕を背中で潰されて抜けない。
その間にもどんどん剥かれて首の包帯まで取られる。
一旦手を止めてじっと見る。

いやな目だな…。噛み付くように首から胸にキスをされる。やばい…。このままじゃやられる…。

胸を舌でころがされ甘噛みされる抵抗するにも力が入らない。
「敏感なところは同じだな…。」
と呟く。

ムカッとして
「シャア!ばかっ…。目覚ませ!」
このままやられても知らないからな!浮気したら殺すとか言っててこれはどうするんだよ。

それより傷口開いたらどうしよう…。あちこちから怒られる…。なんで奴が無理するとおれが怒られるんだ。

ほとんど抵抗できないのに気が緩んだか片手がぬけた。
奴のあたまの包帯をむしりとってそのまま首に絡めて引っ張る。

動きが止まったのでその隙にそそくさ逃げ出し振り返るとぼたっと血が落ちる…。
あー開いてしまった…。痛みで目が覚めたのか気配が変わってる…。ほっとする。

髪をかきあげながら
「乱暴だな…。」
「悪かったよ…。」
襟を合わせてさっさとベッドから降りてタオルと洗面器に水を入れて持ってくる。

さつきシーツ換えたばかりなのにまた血がついてしまった。
「もう…。また怒られる。血は染み抜きが大変なのに…。」

血を拭って包帯を巻き直すが血がにじむ。縫い直し?暫くはいやでも包帯姿だな。髪が不ぞろいになるし…。

一晩で2度の出血。何やってると思われてるんだろ…。考えないどこ…。
どのみちおれが怒られるんだろうな…。今回は怒られても仕方ないか。朝が怖いぞ。

「痛くないのか?」
白い顔でぼーつとしてる。熱があるようだが何も言わない。
「とりあえず水。」
容器ごと渡すとじつと見てる…。

「飲めば落ち着くよ。見てないで飲んで。」
「…2度までも。」
「あー、失敗したな…。油断した。」

水を飲み終えて溜息つきながら
「夢を見てた。」
「どんな?」

「ララアを失った後きみを手に入れてずっとわたしの下で片腕としてMSを駆ってきた。」
「手に入れたってどうやって?」

暗い目でじっと見られる…。あーそう。子供に力づくは感心しないぞ。

「それで?」
「時と共に笑ってくれるようになったのにわたしをかばって死んでしまった。
最後の言葉はごめんなさい。だった。そんな言葉は聞きたくなかった。」
絶望と怒りがにじみ出る。

『全てを呪う…。』…シンクロしたな。
とっさに顔を軽く叩く。はっとして目を瞬いてる。影響受けやすいな。

「それは夢だ。」
「そうだな…。」
不味いな。このままではまたすぐ来そうだ。

「聞いとくけど。次にこられたらやられそうなんだけど。」
睨まれた。

「これ以上あなたに怪我させられないし力じゃかなわないし。」
「命を守ってくれ。」

そっちの方が難しいかも。理屈はわからないが狙いはおれなら離れた方が良いだろう。
いるとまた体を使われる。無言で部屋を出ようとすると
「アムロ。」

と呼び止められるが振り向かずにそのまま庭に出る。
何か音がする…。空気が震えるような羽音のような…。
何かが真直ぐ近づいてくる。紛れもない殺気だ。役に立たなくても銃が欲しいところだ。

窓から出てくるシャアが見える。
「来るな!」

音が変わった瞬間に目の前に虹が見えたかと思ったら真っ暗になってその闇の中から手が出てくる。
反射的に下がると信じられない速さで伸びてきて腕を捕らえられ引っ張られる。

足元の感覚がない。落ちると思った瞬間に抱きこまれる。
冷水を浴びせられたように体が冷える。シャアが叫ぶ声が耳に残る。
体の軸が歪むような力の渦に巻き込まれ静寂が支配する。


気がつくとまわりは灰色でうつぶせに伏せていた。冷たくも埃っぽくもないし何の気配も無い。
起きて周りを見ても灰色一色だ。足元だけ感じるけど
「まいったな…。」

歩いても意味無さそうだし。こんな訳のわからない所で遭難か?飢えて死ぬのは嫌だなあ。
「立ってると疲れるんだけど。」
地面に座り込むのもちょっと。言ってみるものだどこからともなく椅子が出てきた。

「水飲みたい。」
今度はテーブルとコップに入った水だ。なんつーでたらめな…。椅子に座って水を飲む。じたばたしても無駄だ。
かと言って来るのを待つしかないって言うのもなあ…。
「外が見えたら何かわかるのか?」

窓が出てきた…。向こうは変わらず灰色。おーい…。窓だけあっても。開けると何か出てくるのか?開けてみる。
何も出ないだろうという予想に反して見慣れた風景が広がった。さっきまで居た庭だ。
無論人気はない。流石に良い性格だな…。

灰色よりましだと思って庭に下りる。周りを見ると寸分たがわず再構築されてる。花は咲き乱れ緑が生き生きしてる。
生き物がいないだけだ。風もない。芝に寝転ぶと青空に雲が浮かんでる。音がない。

目をつぶると何かをかすかに感じるが掴みきれない。そのままそれに集中してると違うものが近づいてきて気配が散ってしまう。

身を起こして少し上を見ていると黒い渦ができてまた手が出るかと思ったら渦が大きくなって足が出てきた。サンダルですか…。
そのまま階段を下りるように全身出てくる。

「変な格好…。」
「ひどいな。」
「え〜そんな大昔のギリシャみたいな格好見たこと無い。」

暖かいんだな。確かトガとか言うんじゃなかったか?違ったかな?良くわからん。

「で?」
「ああ。これは解くと毛布代わりになる。」
なんじゃそりゃ…。そのまま当然のように手を伸ばしてくる。腕を掴む手が冷たい。なんだろうこの感覚。

つかまれた所から痺れていくような…。そのまま抱きこまれると触れる所から冷たい…。
「寒い…。」

眉を顰める。力は感じるが何故こんなに冷たいんだろう。体はある。触れてくるものが何か違う。
生きてるんだろうか?目を見る。青い瞳に暗い影がある。
軽く触れるように口付けてくるとその瞳が和らぎ溜息のように呟く。

「アムロ…。」
気配が変わって冷気は和らぐが力が入らない。
「きみがいなければ…。世界は闇だ。」
だからと言って本当に闇にするやつがあるか…。
作品名:声が聞こえる 作家名:ぼの