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声が聞こえる

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うつむいてしまった。苛めすぎたかな。でも駄々捏ねられても困る。


…それでも触れてくる手は優しかった…。


ふーん。
「好かれる所があってよかったな…。」
「…戻ってきてくれないのか。」
「死んだものは戻らない。それを認めないで捜し求めるあなたのしてることは本人の存在の否定だろ。本物から離れていくだけだ。」

「厳しいな…。」
「殺されそうになったんだからこのくらい言うぞ。」
「このままここで二人でずっといたいと言ったら…。」
「また失うだけだ。」

「きみは…容赦がないな…。わたしに一人で生きていけと言うのか。」
「自分のしたことは自分で引き受けるしかないだろ。」よその事まで手回りません。

「わたしは…何をしたんだろうな…。」
「このままでは死んだ人間が浮かばれないのは確かだな。」

眼を瞑って額を押えている。言い過ぎたかな…。じっと見てると涙が一筋落ちた。
体が勝手に動いて頬を伝う涙に触れる。鈴のような音がして


帰ろう。ずっと見てるから…。


驚いた顔しておれを見てる。
「いまのは…。」
「みたいだな…。」

「帰ろうといわれても…。どうすれば良いのか…。」
「ここにはどうやってきたのさ。」
「気がついたらいたから…。」
そうだろうな…。

「多分強く願えばいいんじゃないか?」
「帰りたいと?」
「そう。」
「全てを受け入れろと?」

指で胸を突く。
「そうだよ。どこを探しても満足できなかっただろ?あなたの中にいるんだから。」

「まるで青い鳥だな。」
「おれにはオズの魔法使いだけど。」

首を傾げてる。
「お家が一番。」苦笑してる。

「あのさ…。愛って言うのはなくなったりしないと思うんだ。見失うってしまうだけで。心の中にずっとある。」
「だが…寂しいし切ない。」
素直だねえ。

「生きているから…。呼吸してるうちはあがかなきゃいけないと思う。生きてるものの勤めだ。」
「強いな…。」

「諦めたくないんだ…。幼馴染に拗ねても何にもならないと叱られたし。」
叱ってくれる人がいるうちが華かな…。遠くを見る目で人を見て

「幼馴染か…。わたしは誰とも逢わせなかった。色んなものを彼から奪って失ってしまったんだな…。」
「それはお互い様だろう。得た物だってあったはずだ。」

「そうだな。帰るか…。いるべき場所に。そうなるときみはどうなる?」
「あなたがいなくなればこの場はなくなって帰れるんじゃないかな…。多分。強く願えば。まどうにかなるよ。」

頬に手を添えてじっと見ながら
「アムロ。きみといたかった。一緒に年月を重ねたかった…。」
「じゃおれはあなたが見ている夢なんだよ。」

「それにしては口が悪すぎる…。わたしの夢だと言うのならもっと優しくしてくれてもいいんじゃないのか?」
むっとすると

「きみは幸せなのか?」
「不幸ではないよ。割と楽しい。」

「そうか…。そういう夢を見よう。」

柔らかく笑うとだんだん存在感が希薄になって世界が灰色になってゆく。


目を閉じながら呟く。


「お家が一番。」


「何が一番だって?」
目を開けると包帯が見える。膝枕されてる。まだ暗い。ぼーっとしながら
「どのくらい寝てた?」

「倒れてから5分と経ってないが。そろそろ運ぼうかと思っていたところだ。」
そんな事じゃないかと思ったけど。よっこいしょと上半身を起こす。
「自分で歩くよ。」

ゆっくり休みたい。うーんと伸びをして起き上がる。
「大丈夫そうだな。」
「あー疲れただけ。」
「結局なんだったんだ?」
説明がめんどい。

「まあ…人の夢に巻き込まれたと言うか…。ともかく眠むろう。まだ暗い…。冷えると傷に障る…。」
服の裾引っ張って歩き出す。

「夢でこの怪我か?割に合わないぞ。」
「不可抗力だろ。文句は起きてから聞くよ…。明日休むから…。」

だんだん頭が寝てくるのがわかる…。ベッドにたどり着いたらそのまま即行寝てしまつた。

ナナイさんに話したのは次の日目を覚ましてからで検査はほとんど終わってた。
「血液検査で薬物は検出されなかったんですが…。正直その話で納得は出来ません。」
「無理もないですよ。納得いくまで調べてください。泊まり込みでも良いですよ。」

調度良い。ついでに全部見てもらえ。今回の収穫はそれぐらいか…。
あとは人前で言い争うのはやめよう…。身につまされたぞ。


帰ってきたシャアは予想通り不機嫌で、
「何故わたしだけあんなに検査を受けなきゃいけないんだ。きみも受けるべきだろう。」
とぶつぶつ言う。立場が違うだろうが。

「おれは健康診断も行きたく無いぞ。」
「健康診断ぐらい受けたまえ。」
「あなたが変なところに痣作らなきゃ問題ないけど。」

目を外す。あのね〜。
睨むとわざとらしく話を変えようとする。
「ああ…。そう言えばきみあの時何が一番と言っていたんだ?」

「お家が一番。」

途端に機嫌が直った。変なところが素直だな。


機嫌よさげにしてると思ったら急に真剣になって俺の手をとった。
「アムロ。昨日のことは聞きたくない。帰ってきてくれたからそれで十分だ。」

「今はね。話す元気はないよ。でもあなたが夢で見たことそのままだ。説明すると陳腐になって口に出すほど変わってしまうけど。あの狂気じみた悲しみは本当のことだ。」

「情けないことにきみが倒れていたあいだ二度と目が覚めないんじゃないかとか色々考えて抱いたまま暫く動けなかった。」
「ずいぶん素直だな。」

「君が死ぬところを夢で何度も見たような気がするから。今ここにいてくれるのがどんなにありがたいか…。」
「じゃ俺はあなたをあんな目にあわせないと約束するよ。あんなうつろな声は二度と聞きたくない。」

ひどく嬉しそうにやわらかく微笑んでそのまま抱きしめられる。
「ありがとう。」

その顔を見ながらこの約束が守れますようにと強く願った。


この祈りが届きますように…。

2007/10
作品名:声が聞こえる 作家名:ぼの