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声が聞こえる

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まるで仕事の内のようだ。余程憎まれてるんだと思ってた。

「憎かったとも。いつも何も言わない。心を開いてくれない。それでも離せなかった…。」


あなたの望んだとおりにしただけだ…心など要らないといった戦力になればと。
おれはララアほど強くない。あなたの気まぐれに振り回されたんじゃあなたの望む戦力になれない。
ララアの代わりになれと言われたのに。

経過はともかく承知した以上ララアの代わりに守るつもりだった。
あなたの憎しみは消えなくても悲しみは薄れるかと思ったけどどちらも変わらずに持ち続けて…。
それを向けられるのに疲れ果てて隙が出来てしまって避け切れなかった…。

死んだらゆっくり眠れるかと思ったんだけど気がついたらこの場の一部に取り込まれて止めようと思っても聞こえないし出れないし見てるだけ…。

「見ていたのか…。」

そこで俺を睨まなくても…。
「えーと話し通じてるようなんでおれは席外したいんだけど。」

これ以上聞いていたくないので身を起こして離れようとする。
「ちょっと待て。」

少し離れて座ってると暫く難しい顔してる。そのまま人の手を握って頷いて
「離れるとつながらない。」
「え…。」

中継所かい…いやー人の痴話げんかにこれ以上巻き込まれたくないんだけど…。
「じゃ背中合わせに座ろう。」
「なぜだ?」

「睨まれるのはいやだ。」
それにあんまり聞きたくないし…。背を向けると寄りかかってくる。重い…。背をずらすと首に腕をかけて引きずり倒され頭をぶつける。

「いた…。」
頭を抱えてると上から覆いかぶさるようにして
「目を見て話せと言われなかったか?」
「凝視されると怖いだけだぞ。」
「背を向けるのが悪い。」

そう言われても…。
「顔見られないと集中できないし集中しないと聞こえない。」
「この姿勢も辛いんだけど。」

「きみに触れていたい…。」
と胸に頭を乗せてくる。重い…。が文句も言えない雰囲気。
「久しぶりな気がする。」

「なにが?」
「のんびりするのが…。」
「そう?」

寝てもいない感じだよなあ…。もしかしてずっと動き回っていたのかも。ハリケーンみたいなものか?凄い迷惑。

…あれ寝てる。片腕をつかまれたままだし重いけど暫くこのままでいいか…。
いざとなったら頭を退かせば良いし。なんか疲れた…。

空を見ると高くて青くて雲がゆっくり動いてる。空気が動いてるけど音がしない世界か。
静寂が耳に痛い。自分の鼓動とシャアの寝息だけ…。目を閉じると重さも熱も遠のくように感じる。

本当に体があるのかどうか疑問だ。目に見えると思ってるイメージに惑わされてるのかもしれない。

まぎれもないと思うのは腕を掴んで離さないこの執着だけだ。慣れてても時々息苦しい。愛憎入り乱れるか…。
愛も憎しみも同じように強い。そんなものをまともに向けられたんじゃきつ過ぎる。

はつきり言って10代でこんなやつの相手するのは御免だ。と言うか10代の時の事なんか思い出したくもない。
どうせ良く覚えてないけど落ち込むし。

平凡とか普通がいい。
この人もそういうものに縁がないな。髪を梳いてみる。指に絡んできらきらする。

うーんやっぱきらきらするの好きかも。言うと嫌がるから言わないけど。光を受けて反射する髪を見てるとそのまま感情を写すその目を連想する。
その時々で感情をそのままむき出しにする。他の人にはそんな事ないのに。まあこっちも大人しくしてないけど。負けずに睨み返すか流すか。

どちらかと言うと回りのほうが緊張してることが多いか。他に迷惑かけてるな。他人を巻き込むのは嫌なんだけど…今回もどうなってることやら。
この場を形成してるのはこの人だけど理屈がわからない。極めて感情的な気はするが…。何時ものことか。動機が不純で理屈付けるからなあ。


「不純とは失礼な…。」
顔を近づけてくる。
「起きたのか…。」
重さが増してるような。

「常にきみを求めているだけだ。」
「それなんだけど。あなたが求めてるのはあなたに都合のいい部分か?それともララアの代わり?おれ自身はいらないんじゃないの?」

肘で体を浮かせて覆いかぶさってくる。
「きみは心の奥でわたしを締め出していた。」


それはあなたがどう思おうが言うとおりに動けば良いと言ったから。作戦に影響したことはないだろう。
出来ることはやったつもりだ。あなたが気まぐれに求めてくるのを拒んだこともない。愚痴も言わなかった。


「わたしは言って欲しかったきみの気持ちを。きつく当たれば言うかとも思ったが時々睨むだけでだんだん虚ろになっていく。
時々笑ってくれるようになっても直ぐ無表情になる。MSに関わっている時だけ生き生きして。
思い切って手放せばよかったのかもしれないが…知らない誰かに笑いかけるのかと思うと我慢できなかった。」


目を見ながら言われても。


…これで眠れるかと思ったらどこかに囚われたままで外の音は聞こえてもこっちの声は聞こえない。
あんなに怒りまくるとは思わなかった。嘆き悲しむとも。見てるだけで何も出来ない…気が狂いそうだった。

丸くなって小さくなって聞かないようにしようとしても荒れ狂う感情が嫌でも伝わる。今までのことよりずっと苦しめているのが辛かった。
伝えようもなくて…。声が聞こえるまで。


「声?おれが聞いたのはこの人の声だったけど?」

きみが悪いんだわたしをおいて逝ってしまうから…。ずいぶんうつろに響いた。二度と聞きたくないほど。


そうじゃなく言い返す声。良く聞くと自分の声と同じで。見えてきたのは睨み返す顔で。新鮮で。
よどんだ空気が澄んでいくような…。視界が広がるような…。そんな雰囲気になったから声が聞こえるように願った。
聞こえなくても外に出れたからいいけど。


「移動しただけなのでは…。」


うん。でも全然違う。睨まれても全然楽。


「楽と言われても…。睨まれてるのはおれなんだけど…。」
まだ睨まれたままなんですが…。


「戻って来い。」


無理だと思う。しっくりするし。だいたいあなたは他を探しまくったじゃないか。形が同じなら何でも良いんだろ?


「そんな事はない。」
「まあ…行く先々で片端から否定しまくってたみたいだけど…。」


もう良いんだ…最初から否定されてたし。正気に戻ったようだし。安心して眠れる。


ぐいっと襟をつかまれて引き起こされる。
「返してくれ。」
「そんな事言われても…。本人次第だろ。」

その気がないなら無理じゃないかなあ…。聞く耳持たない感じ。
痴話げんかとしか思えない…。夫婦喧嘩は犬も食わないと言うし…。おれ逃げたい…。


「きみを消せば出てくるか…。」
目が据わってる。
「えらく短絡的だな。一緒に消えるとは思わないのか?おれはべつにこのまま消えるまで預かってもかまわない。」
ずっと休んでれば良いし。目をそらして手を離す。

「嫌われたものだな…。」
「好かれるようなことしたの?」
「そうだな…。何も言わなかった。時間はあると。いつかはと。高をくくっていた。」

「何時かなんていってるといつまで経っても出来ないものだよ。」
作品名:声が聞こえる 作家名:ぼの