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「しっかり者のお前のことだから心配はいらないと思うが、夏だからといって冷房をつけたまま眠ったりしないように」
藤原が手紙の一文を読み上げ、怪訝そうな顔をした。吹雪は口元を押さえて必死に笑いをこらえる。
「……天然にも程がある」
「亮は藤原のこと何だと思ってるんだろうね」
亮が藤原に宛てた手紙を読みながら、吹雪と藤原は灯台の下に並んで座っていた。
潮風に髪をなびかせ、吹雪は磯の香りを吸い込む。
「メールじゃなくて手紙ってところが丸藤らしいというか何というか」
「年賀状もちゃんと手書きだしね。ヘルカイザーだった時はくれなかったけど」
ニヤニヤしながらの吹雪の言葉に、藤原もつい笑ってしまう。
決して笑い事ではないということは、弟に車椅子を押してもらっていた亮を見たので知っている。
「見てみたかったな、全盛期のヘルカイザー。生で。あの丸藤がそんなことになってたなんて」
「あれはすごかったよ。本当に別人みたいだった」
二人の笑い声を吸い込むような蒼穹。海の真ん中にあるデュエルアカデミアの夏は爽やかだ。
「どうだい? 久しぶりのデュエルアカデミアは」
「楽しいよ。忘れたくても忘れられないような人ばかりだ」
穏やかな表情を見せる藤原を見て、吹雪も笑顔を浮かべる。
剣山やレイといった後輩達を信頼してはいるが、藤原本人の笑顔を見れたことで改めて安堵したのだ。
「よかった」
「うん」
吹雪に応じて藤原も頷いた。二人の短い言葉には、万感の想いが込められている。
ふと、一際強い風が二人の間を吹き抜けた。
「吹雪。そろそろ向こうに戻らないか?」
「そうだね、戻ろうか」
真夏の野外の暑さに耐えかねたこともあり、二人は立ち上がった。亮の手紙に冷房のことが書いてあったことを思い出して藤原は一人で苦笑した。
ふと、別の誰かが微笑む気配を感じて、吹雪は後ろを振り返った。自分達以外には誰もいなかったはずのそこに、翼を生やした男が立っていた。
「……!」
彼がオネストであることはすぐにわかった。吹雪は精霊を見ることが出来ないためダークネスの事件の後に彼と会うことはなかったが、藤原のために必死だった彼のことは鮮明に覚えている。
その彼がこうして実体化してまで姿を見せたことに驚き、吹雪は思わず目をこすった。再び見た時には、誰もいなくなっていた。
「どうかしたのか吹雪?」
「いや……。何でもない」
オネストがいた場所を見て微笑んでから、吹雪は藤原と共に肩を並べて歩き出した。
ダークネスの力を振りかざしていた二人を再び受け入れてくれた場所、デュエルアカデミアに向かって。