英雄の手記
お前を幽閉するから共に来い、従わなければこの場で殺す。
せめて可愛い女の子に言われたかったと思った。出来れば胸元にすがりついて、切羽詰まった様子で。
だが現実は非情だ。目の前にいるのは陰気なおっさんだ。
「嫌です」
僕はメロダークの説得を拒否した。
お世辞にも明るい人だとは言えない彼は、いつも以上に暗い眼差しで僕を見ている。
「やはり、説得は無理か……」
そう言いながらメロダークが剣を抜き放つのと、僕が構えた杖から冷気が放たれたのは、ほぼ同時だった。
当時の記憶に思いを馳せていた僕は、机を挟んだ向かい側に座るメロダークに意識を戻した。
彼にしては珍しくはっきりと感情を顔に出している。あれを見て不機嫌だと気付かない人はいない。
タイタスを倒した僕は、何百年も経過した後の世界で目覚めた。
今は一緒にこの時代に来たメロダーク、テレージャ、エンダと共に『英雄』の痕跡探しのようなものをしている。
石碑を見に行ったり、伝わっている話を聞かせてもらったり、詳細な記録が載っている書物や派手に脚色された小説を買って読んだり。
そうやって、僕達がどういう風に語り継がれ、他の仲間達やホルムがあの後どうなったのかを調べていた。
そんなある日、テレージャがある本を買ってきた。遺跡の探索に行くようになってから書き始めた僕の日記だった。ご丁寧に遺跡の地図や解説を添えて読みやすくしてある。
何というものが流通してるんだとのたうち回る僕に、テレージャはニヤニヤしながら「彼にもこれを渡しておいたよ」と言った。
テレージャの言う彼がメロダークを指している事は、日記を書いた僕が一番良く知っていた。
忘却界での出来事を忘れたくないと思った僕は、あの日の事を詳細に日記に記録しておいたのだ。かなり正確に書けたと思っている。もちろん本にもそのまま載っていた。
メロダークが僕を呼び出したのは、そこの記述が原因だ。
メロダークは落ち込んでいた。沈んでいるという表現がぴったりだ。今にも黒蛇が足元から出てきそうだ。
「あれを他の奴らに読まれたのかと思うと、裸を見られるより恥ずかしい」
長い沈黙の後にメロダークが口にしたのはそれだけだった。もっと文句を言われると思っていたのでほっとした。
「責めるつもりはないが、この恥ずかしさを伝えられる相手はお前しかいない。すまん、余計な時間を取らせてしまったな」
メロダークの気持ちはよくわかる。僕もアダ様やパリス達にあれを読まれたと思うと死にたくなる。誰かに当たりたくもなるだろう。
僕が跪いたメロダークに手を差し伸べて立たせたとか、お互いにボロボロだったから支えあって帰ったとか、そんなの詳しく書かなければ良かったと思っている。
「別にいいよ。それより、メロダークが裸を見られて恥ずかしがってる姿なんて想像できないんだけど」
とりあえずさっきのメロダークの発言にはどうしても言い返したかったので、そうしておいた。
せめて可愛い女の子に言われたかったと思った。出来れば胸元にすがりついて、切羽詰まった様子で。
だが現実は非情だ。目の前にいるのは陰気なおっさんだ。
「嫌です」
僕はメロダークの説得を拒否した。
お世辞にも明るい人だとは言えない彼は、いつも以上に暗い眼差しで僕を見ている。
「やはり、説得は無理か……」
そう言いながらメロダークが剣を抜き放つのと、僕が構えた杖から冷気が放たれたのは、ほぼ同時だった。
当時の記憶に思いを馳せていた僕は、机を挟んだ向かい側に座るメロダークに意識を戻した。
彼にしては珍しくはっきりと感情を顔に出している。あれを見て不機嫌だと気付かない人はいない。
タイタスを倒した僕は、何百年も経過した後の世界で目覚めた。
今は一緒にこの時代に来たメロダーク、テレージャ、エンダと共に『英雄』の痕跡探しのようなものをしている。
石碑を見に行ったり、伝わっている話を聞かせてもらったり、詳細な記録が載っている書物や派手に脚色された小説を買って読んだり。
そうやって、僕達がどういう風に語り継がれ、他の仲間達やホルムがあの後どうなったのかを調べていた。
そんなある日、テレージャがある本を買ってきた。遺跡の探索に行くようになってから書き始めた僕の日記だった。ご丁寧に遺跡の地図や解説を添えて読みやすくしてある。
何というものが流通してるんだとのたうち回る僕に、テレージャはニヤニヤしながら「彼にもこれを渡しておいたよ」と言った。
テレージャの言う彼がメロダークを指している事は、日記を書いた僕が一番良く知っていた。
忘却界での出来事を忘れたくないと思った僕は、あの日の事を詳細に日記に記録しておいたのだ。かなり正確に書けたと思っている。もちろん本にもそのまま載っていた。
メロダークが僕を呼び出したのは、そこの記述が原因だ。
メロダークは落ち込んでいた。沈んでいるという表現がぴったりだ。今にも黒蛇が足元から出てきそうだ。
「あれを他の奴らに読まれたのかと思うと、裸を見られるより恥ずかしい」
長い沈黙の後にメロダークが口にしたのはそれだけだった。もっと文句を言われると思っていたのでほっとした。
「責めるつもりはないが、この恥ずかしさを伝えられる相手はお前しかいない。すまん、余計な時間を取らせてしまったな」
メロダークの気持ちはよくわかる。僕もアダ様やパリス達にあれを読まれたと思うと死にたくなる。誰かに当たりたくもなるだろう。
僕が跪いたメロダークに手を差し伸べて立たせたとか、お互いにボロボロだったから支えあって帰ったとか、そんなの詳しく書かなければ良かったと思っている。
「別にいいよ。それより、メロダークが裸を見られて恥ずかしがってる姿なんて想像できないんだけど」
とりあえずさっきのメロダークの発言にはどうしても言い返したかったので、そうしておいた。