英雄の手記
テレージャに仕返ししたいと真剣に考えていた僕は、うってつけの本を見つけたので買ってきた。
「テレージャさーん、これ何だと思う?」
意地悪すぎる行為だと自覚しながらも、僕は包みを解いた本を見せびらかす。
テレージャは目を丸くして表紙を見つめていた。
「著者が私の名前? 一体何の……はっ!」
本のタイトルに気がついたテレージャが慌てて本を奪おうとしてきたので、僕はにっこり笑って逃げた。
「宣伝文は『大シーウァ建国王と魔王殺しの勇士、二人の絆で魔王を倒す! 愛と感動の超大作』だって」
「中身は見るなと言っておいたのに! 私が死んだら燃やせと言っておいたのに! 確かに死んじゃいないが戻って来なかったんだから燃やしてくれれば良かったのに! 誰だ私のノートを暴いた奴は!」
叫びながら床に突っ伏すテレージャ。少し可哀想になりながらも、僕はパラパラと本を流し読みする。
かなり面白そうな小説だった。だが僕の予想通り、主人公の二人が親密すぎる。誰もがこの二人には友情以上の絆があると読み取るだろう。
それはテレージャの嗜好を知らない人間ならば『親愛』『強い信頼関係』と解釈できる。残念ながら僕は知っているので、本来の狙いをしっかり理解してしまった。
一般読者から高く評価され、同好の士にはもっと楽しんでもらえる。素晴らしい作品じゃないか、テレージャさん。そう口にしようか迷ったが、やめておいた。
「……それにしても、これが噂の『ぬとぬとした友情』か。思ってたより普通だな」
「その話ではあくまでも『友情』だからね……。私の拘りさ……」
僕の独り言に、床に伏せったままのテレージャが反応してきた。声は掠れているが、何故か誇らしげだ。
「私達の方がもっとぬとぬとしている」
いつの間にか僕の真後ろにいたメロダークがぼそりと呟いた。対抗意識を燃やしているようだ。止めて欲しい。
エンダが不思議そうに「ぬとぬとって何だ? べとべとみたいなものか?」と聞いてきた。僕は彼女の頭を撫でて「気にしなくていいからね」と返しておいた。
こんな下らない会話をしている間にも一日は過ぎていく。僕達が守った未来は、今日も平和だ。