英雄の手記
「……お前と私の関係がやけに美化されて書かれている本が多いとは思っていたが、こういう理由だったのだな」
メロダークがぽつりと呟いた。
エンダが帰って来て夕食を催促するまで、僕とメロダークは日記を広げて思い出話に耽っていた。
次の日の朝、気配を感じて目覚めると、壁際にメロダークが立っていた。
僕を起こしに来たのなら何かしら行動しているはず。つまりこれは僕が起きるのを待っていたという事だ。
僕が身を起こすと、彼は静かに寝台の近くに歩み寄り、跪いて頭を垂れた。
「……何故あれを書いたのかと私はお前を責めた。だが、お前が私を大切に思ってくれているとわかって、嬉しくもあった。そう言えずに責める形になってしまって、すまない」
「あなたが謝る必要はないと思うよ」
僕はメロダークの頬に優しく触れる。彼の肩から力が抜けていくのがわかった。
謝罪を要求するほどメロダークに怒りを感じた事はない。そもそも昨日のあれは喧嘩でさえない。彼だってそれはわかっているはずだが、それでもこうして僕に許しを乞う。
ふと、常に思い詰めた顔をしていた少年の姿を思い出す。今の彼は目の前で、親しくない人間にはわからない程度にだが、穏やかな表情を浮かべている。
あの黒蛇は減っているのだろうか。僕は少しでも減らせているのだろうか。そんな事を考えながら、メロダークの額にキスをした。