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前を向いて

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 幻の帝都へは一人で向かった。私が行かなければならない。わかりきった事だ。
 それに、シーフォンを助ける事が不可能だった場合、彼を倒さなければならないというのもある。ネルやパリス達に仲間を殺すなんて事はさせたくない。苦しむのは私だけでいい。手を血で汚すのは私だけでいい。
 眼前に広がる逆さまの都市を見て、ふと頭に浮かんだのは、デネロス先生から聞かされた妖精郷の英雄の伝説だった。
 大河の岸辺に流れ着き、偉業を成し遂げて何処かへと去ってゆく英雄。領主のグリムワルド家はそうした英雄の子孫だという。英雄はこの地を去ると言われているが、彼はホルムに残ったという事なのだろうか。それとも、愛した人と子供を残して去ってしまったのだろうか。
 私はどうなるのだろう。タイタスが倒せるのか不安になってしまう。確かに今の私は強い。絶対に倒してやるとも思っている。だが、この強さは血が成せる業なのだと、結局ずっとタイタスの掌の上にいるだけなのではないかと、そんな風に考えては気分が悪くなってしまう。いつまで経っても意気地無しの私が、本当に勝てるのだろうか?
 シーフォンを助けてタイタスを倒して、その後はどうする。英雄なんて肩書きはきっと重荷でしかない。私を知る人がいない遠くへ行く為にホルムを去るか、それとも残ってまた細々と日々を過ごすのか。地底に白い異形の人々が居ると、私の血族が暮らしている事を知りながら、真っ当に生きていけるだろうか。誰かと恋に落ちても、子供を欲しいと思えるのだろうか。そもそも私なんかを好きになってくれる奇特な人がいるかどうか疑問だ。

 後ろ向きな考えばかりになってしまうのを見抜いたらしいユリアに、顔を合わせるなり呆れたような目で見つめられてしまった。
「前に会った時もそうであったの。不安に支配されておる」
 シーフォンの肉体をまとったタイタスと相対して、私は強力な魔術師だという唯一の自信さえも打ち砕かれそうになっていたのだけれど、彼女から祝福を与えられて、ざわざわとした嫌な感覚や焦燥感がすっと消えた。
「これで少しは落ち着いたじゃろ。胸を張って行って来い。出来るな?」
 私は頷いた。今まで生きてきた中で最も力強い頷きだったと胸を張って言える。そんなところで胸を張るなとまた呆れられそうなので、口には出さない。

 そして――。








 花びらが舞う。紙吹雪が降る。人々が笑顔で行き交い、音楽に合わせて子供が即興のでたらめな歌を口ずさむ。町の平和を祝って、町を守った英雄を讃えて。
 祭りのざわめきを背に、大河のほとりに佇む二人の人影があった。白っぽい少女と、鮮やかな髪の少年だ。彼らはしばらく黙って水面を見つめていた。幾つもの白い花がゆるやかに流れて行くのを、穏やかな静けさと共に眺めていた。彼らの胸の中を占めるのはどんな想いなのだろうか。
 やがてどちらからともなく町に戻ろうと歩き出した。少年が先に歩き、少女はその後ろをついていく。少年は少女を省みることなくずかずかと行ってしまうように見えたが、ある程度の距離が開くと歩みを止めて少女が追いつくのを待った。そうして、小走りでやって来た少女をちらりと見ると、先程よりも少し遅めに足を踏み出した。
 前を行く少年に向けられた少女の淡い微笑みは花がほころぶよう。少年はつんと澄ました表情だが、隠しきれない照れが滲み出ている。
 肩を並べて歩く彼らの姿の上には、どこまでも澄んだ青い空が広がっている。新しい出発を励ますように、優しく暖かい風が二人の頬を撫でた。


作品名:前を向いて 作家名:ナオリ