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【テニプリ】ヒカリノサキ

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奈落の底は闇







「…大丈夫?」


「……何が?」
のろのろとラケットを持ち上げた越前リョーマを不二周助は構えていたカメラを下ろして、真顔で見つめた。

 全英オープンから、既に1ヶ月…。その後のリョーマは調子を崩し、エントリーしていたトーナメントは散々な結果に終わっていた。

「ちょっと前の顔の腫れも酷かったけど、今の顔も最悪だよ。そんなんじゃ、勝てる試合もないよ」
「……」
リョーマは無言でコートへと向かう。不二はその後を追いかける。

 リョーマがプロに転向して、2年…駆け足で手塚を追うように上がってきたリョーマをカメラマンになった不二は追ってきた。…リョーマとは旧知の仲…以前は同じ人を好きになって、鞘当てしあったこともある。結局、憎めない可愛い後輩にその恋を譲って、告げることもないまま身を引いた恋は未だに不二の中で甘く苦い感情として残っていた。
(…君たちがしっかりくっついてないと、僕は次の恋をすることも出来ないじゃない)
手塚とリョーマとの間に何かあったのだと、ずっと見てきたから直ぐに解った。小さな喧嘩や些細な意見の相違は度々あった。それは全て、リョーマが引くことで今まで丸く収まってきた。でも、今回は違う。かなり、深刻だ
(…何があったの…?)
リョーマを癒やすことも奈落へと突き落とすことができるのも、手塚、ただひとりだけ。リョーマは今、奈落の底にいる。…目にしたことのないリョーマの姿に不二は珍しく眉間に皺を寄せた。








 不二が心配した通り、この日のトーナメントのリョーマのプレイはいつもの精彩を欠き、呆気なく格下の選手に敗退した。







 試合後の緊急に開かれたミーティング。

コーチの言葉はリョーマの耳には入って来ない。どこか虚ろにガットを弄るリョーマにコーチとスタッフは肩を竦め溜息を吐くと部屋を出て行った。リョーマはそれに気づかないまま、ガットに爪を立てる。

 あの時から、何も見えない。何も聴こえない。

血が体内を巡り、光のさきに目が眩んだ。最高に楽しかった歓喜に興奮に頭がおかしくなりそうな快感をこの身に感じだのが今は夢のようだ。今や、自分のいる世界は暗く、周りの声すら聴こえない。あんなに楽しくて、仕方がなかったテニスがちっとも面白くない。ラケットを握るのさえ、苦痛に思ってる。
(…どうして、オレ、テニスしてるんだろ…?)