【テニプリ】ヒカリノサキ
最早義務的に試合を消化している。試合の内容はマスコミのバッシング通り、最近のゲームの内容は最低最悪だ。観客席から聞こえてきたブーイングに自嘲する気さえ起こらない。それだけ感情が麻痺してる。それでも、ラケットを握ってる。
(…部長…、オレ…)
どうしたらいいのか解らない。今まで、手塚が自分の目標で全てだった。
恋人でライバルで、目標で、誰よりも倒したい相手で。
自分の描いてきた夢が突然、断ち切られて、見えていたものが見えなくなり聴こえていたものが聴こえなくなった。
(…部長、オレ、どうしたらいい?)
部長と出会った頃、自分のテニスが父親の模倣にしかすぎないことは頭のどこかで既に自覚していた。それでもいいと思ってた。単にテニスは手近にあったクソ親父を倒す為の手段にしか過ぎなくて、もっと他のものがそこにあったなら、オレはラケットなんて握っていなかったと思う。子どもだったオレは単にあのクソ親父をぎゃふんと言わせたかった。…その為にテニスをしてた。スクールにオレより強い奴はいなくて、
こんなもんか。
…と、ジュニアのトーナメントに出てみてもオレより強い奴はやっぱり、クソ親父しかいなくて、そしてオレの世界は、視野は、ますます狭くなって、クソ親父に勝つことに固執するようになっていった。それで、いいのだと思ってた。つまらなくなるよりは余程、マシに思えたし、テニスが出来なくなってしまった自分なんて想像出来なくなっていた。…それをつまらないと思いながら、それでもテニスをオレは続けるんだろうと思ってた。クソ親父を倒すことを夢見ながら。でも、そんな気はいつの間にかなくなってしまっていた。そんなことをしたら、ゲームセット。夢が終わってしまう。…ゲームをクリアしてしまったら、テニスを続ける意味がなくなってしまうと思っていた。そのときが来たらオレはどうすればいいのだろう?…だから、目を背けて気づかないふりをしていた。その思い上がりにも似た怠慢を一刀両断に切り捨て、眩い見たことのない光のさきを見せたのは、部長だった。
あの先に…光のさきにあるものを見たい。
怠惰に溺れ、周りの見えなかった…見ようとすらしなかった傲慢な自分の目の前にいたのは、手塚国光だった。
『越前、』
作品名:【テニプリ】ヒカリノサキ 作家名:冬故