【テニプリ】ヒカリノサキ
見失った光
to 跡部
sub 相談
text 部屋を探してる。
何かいい物件を知らないか?
-end-
7月の終わり…本格的な夏の日差しとは無縁の快適なオフィスで滞っていた仕事を着々と片付けていた跡部景吾は鳴り響いた着信音に顔を上げ、シャンパンゴールドの携帯を取り上げ、メールを確認した。
「…珍しいな。いつもは直接、電話してくるクセによ…」
今季の全英オープンが終了して、早くも半月が経つ。手塚国光がその大会で優勝を飾り、引退を宣言したのは記憶に新しい。早すぎる引退に色んな噂が飛び交いスポーツ紙の紙面、一般の雑誌までその引退を取り上げ、大騒ぎになったが、その渦中の手塚と言えばどこ吹く風で、周りの喧噪とは裏腹に本人は淡々としていた。その手塚は喧騒を逃れ、ドイツの片田舎で静養中だ。跡部はメール画面を開いた。
to 手塚
sub Re:相談
text 物件ね。そりゃ、海外か、日本か?
-end-
メールを送信し、跡部は立ち上がると給湯室に向かった。最近まで入れ替わり立ち替わり、女子社員が飲みたくもないコーヒーを運んできていたのだが、自分でやるからいいと断った。実際、自分で淹れた茶の方が美味い。跡部は自分専用に用意した紅茶のポットと缶を取り出し、セットする。祖父が誕生日プレゼントに寄越した年代物の懐中時計できっちりと抽出時間を計り、カップに注ぐ。アールグレイの少し癖のある香りが鼻孔を擽る。
「…ふぅ」
カップを片手にデスクに戻ってくれば、携帯の背面ディスプレイが点滅している。
to 跡部
sub Re:Re:相談
text 日本だ。前に言ったと思うが大学に復学するつもりだ。
出来れば大学の近くだと助かる。
-end-
「…大学の近くねぇ…復学するっても、早くて9月だろ…」
跡部はディスプレイを見つめ、眉を寄せた。秋期入学を考えているのか…それにしては、期間が短すぎる。跡部は再び、メール画面を開いた。
to 手塚
sub Re:Re:Re:相談
text いつまでに入り用だ?そもそも、どこの大学入る気だ?
場所が解らねぇと探しようがねぇだろ。バーカ!
-end-
メールを送信して、仕事を再開する。間を置いて着信が鳴り響く。相変わらず手塚はメールを打つのが遅い。
to 跡部
sub Re:Re:Re:Re:相談
作品名:【テニプリ】ヒカリノサキ 作家名:冬故