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After the Dream

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一週間分の疲れを抱えてアパートのドアを開けると、臨也が勢いよく飛び付いてきた。
俺は「またか」と呟いてため息を吐くと、何事もなかったかのように中へ入り、ドアを閉める。

こういうことは何ヶ月か前から度々あることだった。
仕事から帰ってくると何故か臨也が俺の部屋にいて、俺の顔を見るなり抱きついてきて離れない。
最初の頃は面食らって理由を質したり無理矢理引き剥がしたりしたのだが、無言のまましつっこくしがみついてくるので、そのまま放っておくことにした。さすがに着替えとトイレと風呂のときには有無を言わさず引っぺがすのだが。
こういう状態になってしまうと、臨也は普段とは打って変わって無口になる。時々「シズちゃん」だの「死ね」だの小声で呟くだけだ。何というか、やり場のない理不尽さを感じもする。
結局そのまま布団の中にまで引っ付いてきて、ガキに添い寝するように二人で眠ってしまうのがいつものパターンだ。

ただ、朝起きると臨也は必ず俺の部屋から消えている。一切の痕跡を残さずに。
普段の臨也らしからぬ甘えた行動とも相まって、俺はいつも、昨夜のあいつは幻覚か何かだったのかと思ってしまう。
その後街で遭遇すると、決まってうざい御託をペラペラ並べ立てられ、結局いつもの殺し合いじみた喧嘩に発展してしまうのだから、あんな弱った臨也はただの夢だったのだと思ってしまっても無理はない。

しかし、今夜も臨也は俺の家に当たり前のように侵入し、両腕で俺の体をぎゅっと締め付けてくる。
「……おいノミ蟲、離れろ」
「………」
無駄だと思いつつ命令するが、予想通り回された両腕の力が緩むことはない。ただ子供がいやいやをするように、俺の胸に頭を擦り付けてくるだけだ。
俺は再びため息を吐く。

これが夢などではなく紛れもない現実であることはもちろん分かっている。冷えた自身の体に伝わってくる体温は、確かにそこに存在するものだ。
鬱陶しいといえば、間違いなく鬱陶しい。
何しろこの体勢では、靴を脱ぐにも何をするにもかなりの労力がいる。うざい。とてつもなくうざいのだが、街中で出会った時に感じる苛立ちとは違い、まぁいいか、と寛容な気持ちで許してしまえるのが不思議なところである。

……まぁ、今は冬だしな。これが夏だったらさすがにキレるが、多少デカい湯たんぽだと思うことにしよう。

俺は自分自身にこの状況をとりあえず割り切らせ、臨也を引きずるようにしたまま何とかキッチンへ到達する。狭いアパートで良かったな、と妙なところで便利さを感じた。

とにかく、今日も取り立て先で暴れて腹が減っている。相変わらずの臨也は放っておいて、カップ麺でも食べようとヤカンに水を入れ始める。

―――と、ふと現在の状況に違和感を覚えた。

何だ。二十歳をすぎた男が体の前面にへばり付いているのは確かに異常だが、今おかしいと思ったのはそこじゃない。
そこで、左腕に巻いた腕時計が目に入り、納得する。

なるほど。まだ7時半を過ぎたところだ。

臨也が来るのは金曜の夜が多い。いや、今考えると金曜にしか来たことが無いのではないか。
俺は仕事終わりの金曜の夜には、トムさんとよく露西亜寿司へ飲みに行く。大抵気分よく酔っ払ってしまい、ふらつく足のままのんびり歩いて帰ってくると、臨也が待ち構えている、というケースが多いのだ。
抱きついてくる臨也に今までキレなかったのはアルコールのせいもあったのかと発見しつつも、やはり今問題なのはそこじゃない。

飲んで帰ってくると、家に着くのは大体10時近くにはなっている。もちろん夕食も済ませてくるので、帰ってからキッチンに立つこともほとんどない。臨也にしがみつかれたままテレビをぼーっと見て、風呂に入ってすぐに寝てしまうのが常だ。だから、仕事が終わった後真っ直ぐ帰ってきた今日、多少の違和感を覚えたのだろう。
「………」
いや、待て。だが、問題なのは、そこでもない。

臨也は、いつも一体いつから俺の部屋にいるんだ?

これは今まで思い付きもしなかった疑問点だった。
勝手にコタツに入っていたのだろう、適度に体が温まっていることから判断して、今日は遅くとも7時頃には俺の部屋にいたのではないか。
―――まさか、いつもいつも、2、3時間もじっと一人で待っていたのだろうか?
いや、完全なる不法侵入なのだから、俺が知ったことではないが、それにしても。

そして、俺は更なる問題を思いついてしまった。

「おい、臨也。お前夕飯は食ったのか?」
少しの間を置いて、黒髪の頭がふるふると左右に振られる。
「……この前俺んちに来たときは?」
「………」
再び頭が振られる。
「その前は?」
「……食べてない、けど」
俺は思わず天井を仰いだ。

呆れた。
確かに考えてみれば当たり前だ。俺が露西亜寿司にいる間も臨也はここにじっと居座っていたのだろうから。
高校時代から食の細い奴だったけれど、こいつが栄養失調で倒れたところで何の問題もないのだけれど、不法侵入者を心配してやる必要なんてさらさら無いのだけれど。

―――気付くべきだったかな。

俺は舌打ちをして、手加減はしたものの両腕に力を込めて臨也の体を引き離す。
臨也は恨みがましい目をして盛大に俺を睨み付けてきた。なんて可愛くない奴なんだ。
心が折れそうになったが、なんとか自分を励ましてフライパンを手に取る。カップ麺の蓋を開ける前でよかった。
「飯、作るから。大人しく座ってろ」
コタツの方を顎でしゃくってやると、数秒間俺を睨み付けたままだったが、臨也は大人しく指示に従った。
「さてと……」
多分、何も材料が無いってことはないだろう。冷蔵庫を覗き込む。

俺は一体何をやっているんだ、という情けなさにも似た思いはひとまず置いておいた。
作品名:After the Dream 作家名:あずき