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After the Dream

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「……何これ……」
「オムライスだろうが、どっからどう見ても」
とりあえず、あり合わせの物でオムライスを二人分作った。バーテン服から部屋着に着替え終え、やれやれとコタツに入りこむ。

俺はそこまで料理が下手ではない。と思う。目の前で湯気を立てているオムライスだって、きちんとご飯が卵で包まれてるんだから上等だろう。なのに、その絶望的な表情と声は何なんだ。
「嫌なら食うな。ついでに出ていけ」
「だって……シズちゃんがよりによってオムライスって……」
今度は笑いを含んだ声で返される。やはり馬鹿げた事をした。俺は大いに後悔しながら、自分の分のオムライスを口にする。
あ、やっぱちょっと味薄いな。
二人分の料理なんて普段作らないから、調味料の加減がわからなかった。冷蔵庫からケチャップを取ってきて、卵の上に少々追加で振りかける。これぐらいの味がちょうどいい、ともぐもぐ口を動かしながら臨也の方を見ると、びっくりしたような表情で固まっている。
「……嘘、おいしい」
見ると、臨也のオムライスが一口分減っていた。シズちゃんが作ったにしては、という純粋な驚きが明らかに言外に含まれており、軽くイラっとする。味薄くないのか、と探るように言いかけた自分も非常に腹立たしい。

……いや、全てスルーだ。俺は疲れている、早く寝たい、こんな奴にこれ以上構ってはいられない。
「シズちゃん、今イラっとしたでしょ」
「わかってんなら言うな。ついでに今すぐ出ていけ」
「でも、ほんとに、おいしい、から」
顔を背けて、柄にもなく言い辛そうに臨也はそう口にした。

……何だ、素直なこいつも気持ち悪いな。普段は鬱陶しいし、素直になると気味が悪いし、一体こいつはどれだけ性質の悪い奴なんだ。そして改めて、俺と臨也がコタツで夕食を囲んでいるという現状を何かの冗談のように感じる。新羅や街の奴が見たら、夢に違いないと思って必死に目を擦ることだろう。
俺は今夜何度目か分からないため息を吐く。

……俺は疲れている。
そもそも人の家に無断で居座るような、とんでもなく身勝手な奴の相手をする必要なんてない。
なんなら今から首根っこ捕まえて窓から放り投げてやってもいい。

―――のだが。

一人でコタツに入って俺を待っていたこのうざったい天敵に、俺の料理をおいしいと言うこの根性悪の同級生に、今日はもう少しだけ、もうあとほんの少しだけ……
「次から俺んちに来るときは、先に連絡しろ」
「……は?」
いきなりの俺の言葉に臨也は目を丸くする。馬鹿げたことを言っているという自覚はあったが、何だか色々どうでもよくなってきた。
「何時頃なら家にいるか、教えてやるから。だから勝手に人んちに上がりこむのはやめろ。後、飯は三食ちゃんと食え」
「……俺、シズちゃんの携帯の番号もアドレスも知らないんだけど」
「何のために情報屋なんて悪どい商売やってんだよ」
「………」
目をそらした臨也の様子から、もう俺の番号やアドレスぐらいとっくに入手していることが窺えた。連絡先なんて連絡する以外使い道がないだろうに、何を不合理なことをしているんだ。まぁ俺がキレずにそれに対応できるかは、また別の話だが。

「…………ありがとう」

臨也が俯いて小さく呟いた言葉に、今度は俺が少々目を丸くする。黒髪から赤くなった耳が覗いていた。
何だ、今日は本当に素直だな。俺は今さらながらに驚く。

そして、驚きの感情が去った後に残った感情は「気味が悪い」でも「気持ち悪い」でもなくて。
「こういう臨也もいいんじゃねぇの」という、やけに甘い気持ちで。
今度はそんな自分自身に驚いてしまう。

「あー……まぁそういうことだから」
妙な雰囲気になってしまったことに気恥ずかしさを覚える。何だ、このムードは。
それを誤魔化すように、まだ大分残っている臨也のオムライスの上に、ケチャップで「ノミむし」とでかでかと書いてやった。
「シズちゃん、これじゃ味濃いよ」
「いいんだよ、ちょっと薄かったから」
「てか、頭悪すぎ……」
「あぁ? ケンカ売ってんのか」
「『むし』ぐらい漢字で書きなって言ってんの。小学校で習う、簡単な字の方でいいからさ」
「うるせぇな、オムライスに漢字は邪道だろうが」
「昔から思ってたけど、シズちゃんって馬鹿だよね」
「死ね」

そうやって二人で飯を食った後は、いつも通り臨也にしがみつかれたままテレビをぼーっと見て、いつも通り着替えとトイレと風呂のときには有無を言わせず臨也を引っぺがし、いつも通り臨也に引っ付かれたまま布団の中へ入った。

ただ、翌朝目が覚めると、俺の両腕の中で臨也が眠っていた。
作品名:After the Dream 作家名:あずき