友達ごっこ (静雄の言い分)
俺たちの間にあったすべてが滅茶苦茶になったのは,高3の秋だった。俺は臨也が売春の斡旋やその他悪事の煽動をしている事に気付き始めていた。問い詰めた時,臨也はしらを切り通した。俺はそのせいでむきになった。絶対に暴いてやる,そう我武者羅に動いている事が臨也の琴線に触れたのだろう。
「何怒ってるの?だってシズちゃん、俺が本当はこういう奴だって勘付いてただろ?」
臨也は,自分のチームの後輩に俺をボコらせ,そう言い放った。どこまでも安い台詞だった。俺はその後3か月も入院する羽目になり,当たり前だが臨也は一度も見舞いに来なかった。釈明は無かった。俺は何度となく臨也を思い出して怒りを募らせた。あの野郎,ぶん殴る。そう決めていた。ぶん殴って,薄暗い事からは手を引かせる。臨也にそんな事をさせたくなかった。俺は臨也を友人だと思っていた。だから,臨也を説得できると思っていた。
なんという勘違い。
「クッ・・くはっ、はははははははははははは!いやだなあシズちゃん、こんなんでキレてんなよ!どんだけ根に持つんだか」
「マジギレもするさー、手前に3年間利用されてて気付かなかったなんざ、間抜けもいいとこだよなぁ。明らかに手前が怪しいのなんざ最初っから分かりきってた事だったのによぉ・・」
「分かってたんなら何で?いいかい,近づかない方がいいって分かってるモノに近づいて痛い目見たらね,ふつうは自業自得っていうんだよ」
「あー,よく言うよなぁ,騙される方が悪いとかってよぉ・・。ハハハ,んな訳ねぇだろ、騙す方が悪いんだよ。悪い事したら、何て言うんだっけか?なぁ、臨也ぁ」
それは卒業式の後だった。温かい日で,走りまわると暑いくらいだった。空は晴れ渡っているのに,俺たちは薄暗い建物の中にいた。臨也と言い合ううち,俺はどんどん頭に血が上っていき,自分の力をほとんど制御できないところに来てしまっていた。ボキボキと指を鳴らすと,臨也の顔が強張った。
「・・ごめん」
「はぁ?」
俺は聞き返した。
「シズちゃん,ごめん」
ビビッてんのか?不意に俺はそう思った。そんなはずはない。臨也は今までにも散々俺と喧嘩をしているし,俺の力を恐れたことなんかなかった。大勢に俺をリンチさせた時,臨也は「ごめんねぇ」とにやにや笑っていた。同じ言葉なのに,それは,同じ奴とは思えない真摯な謝罪だった。
おい。なんだよそれ。そんなの卑怯だろ。・・俺を暴力の日々に巻き込んだ元凶はお前じゃねぇか。お前が一番悪い奴なのに,何謝ってんだよ。ふざけんな。
俺は確かに臨也に謝罪させたかった。臨也がこれほど真剣に俺に謝ったのは初めてだった。俺は臨也を許したかったはずなのに,臨也に対する怒りがちっとも消化できていなくて,俺は気付くとその後に続くだろう言葉を遮っていた。
「謝ったって事は自分が謝んなきゃなんねぇ事したって分かってんだよなぁ?」
「・・俺が悪かった。シズちゃんに周りを嗅ぎまわられるのが鬱陶しくってちょっとキレてたんだよ,反省してる。俺たち,仲直りできないかな?」
臨也が許せないなら,「二度と俺に近寄んな」と言って立ち去ればよかった。
俺はいつだって襲ってくる暴力は全て力ずくで退けてきた。相手は俺を恐れて二度と手出ししてこなくなり,そうすれば俺は暴力をふるわなくてすむ。そのはずだったのだ。それなのに,俺は,臨也に暴力を振るおうとしていた。臨也が本気で謝っているのなら殴る。本気じゃなかったとしてもやっぱり殴る。殴り殺す。
「殴らせろ」
「・・」
臨也は歯を食いしばった。俺は臨也の顔ではなく,腹を殴った。臨也は,その場に蹲った。
「いってー・・普通殴るっつったら顔じゃない?」
掠れた声で臨也が言って苦笑する。俺は,無言のまま臨也の顔を殴りつけた。
「一発で済ますなんて言ったか?・・何寝てんだよ」
「・・っ,」
「何怒ってるの?だってシズちゃん、俺が本当はこういう奴だって勘付いてただろ?」
臨也は,自分のチームの後輩に俺をボコらせ,そう言い放った。どこまでも安い台詞だった。俺はその後3か月も入院する羽目になり,当たり前だが臨也は一度も見舞いに来なかった。釈明は無かった。俺は何度となく臨也を思い出して怒りを募らせた。あの野郎,ぶん殴る。そう決めていた。ぶん殴って,薄暗い事からは手を引かせる。臨也にそんな事をさせたくなかった。俺は臨也を友人だと思っていた。だから,臨也を説得できると思っていた。
なんという勘違い。
「クッ・・くはっ、はははははははははははは!いやだなあシズちゃん、こんなんでキレてんなよ!どんだけ根に持つんだか」
「マジギレもするさー、手前に3年間利用されてて気付かなかったなんざ、間抜けもいいとこだよなぁ。明らかに手前が怪しいのなんざ最初っから分かりきってた事だったのによぉ・・」
「分かってたんなら何で?いいかい,近づかない方がいいって分かってるモノに近づいて痛い目見たらね,ふつうは自業自得っていうんだよ」
「あー,よく言うよなぁ,騙される方が悪いとかってよぉ・・。ハハハ,んな訳ねぇだろ、騙す方が悪いんだよ。悪い事したら、何て言うんだっけか?なぁ、臨也ぁ」
それは卒業式の後だった。温かい日で,走りまわると暑いくらいだった。空は晴れ渡っているのに,俺たちは薄暗い建物の中にいた。臨也と言い合ううち,俺はどんどん頭に血が上っていき,自分の力をほとんど制御できないところに来てしまっていた。ボキボキと指を鳴らすと,臨也の顔が強張った。
「・・ごめん」
「はぁ?」
俺は聞き返した。
「シズちゃん,ごめん」
ビビッてんのか?不意に俺はそう思った。そんなはずはない。臨也は今までにも散々俺と喧嘩をしているし,俺の力を恐れたことなんかなかった。大勢に俺をリンチさせた時,臨也は「ごめんねぇ」とにやにや笑っていた。同じ言葉なのに,それは,同じ奴とは思えない真摯な謝罪だった。
おい。なんだよそれ。そんなの卑怯だろ。・・俺を暴力の日々に巻き込んだ元凶はお前じゃねぇか。お前が一番悪い奴なのに,何謝ってんだよ。ふざけんな。
俺は確かに臨也に謝罪させたかった。臨也がこれほど真剣に俺に謝ったのは初めてだった。俺は臨也を許したかったはずなのに,臨也に対する怒りがちっとも消化できていなくて,俺は気付くとその後に続くだろう言葉を遮っていた。
「謝ったって事は自分が謝んなきゃなんねぇ事したって分かってんだよなぁ?」
「・・俺が悪かった。シズちゃんに周りを嗅ぎまわられるのが鬱陶しくってちょっとキレてたんだよ,反省してる。俺たち,仲直りできないかな?」
臨也が許せないなら,「二度と俺に近寄んな」と言って立ち去ればよかった。
俺はいつだって襲ってくる暴力は全て力ずくで退けてきた。相手は俺を恐れて二度と手出ししてこなくなり,そうすれば俺は暴力をふるわなくてすむ。そのはずだったのだ。それなのに,俺は,臨也に暴力を振るおうとしていた。臨也が本気で謝っているのなら殴る。本気じゃなかったとしてもやっぱり殴る。殴り殺す。
「殴らせろ」
「・・」
臨也は歯を食いしばった。俺は臨也の顔ではなく,腹を殴った。臨也は,その場に蹲った。
「いってー・・普通殴るっつったら顔じゃない?」
掠れた声で臨也が言って苦笑する。俺は,無言のまま臨也の顔を殴りつけた。
「一発で済ますなんて言ったか?・・何寝てんだよ」
「・・っ,」
作品名:友達ごっこ (静雄の言い分) 作家名:うまなみ