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友達ごっこ (静雄の言い分)

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「いーざーやーぁ」

フェンスの向こう側で折原臨也が倒れている。コートの裾から伸びる細い足の片方は奇妙な方向に曲がっている。臨也が軽々とフェンスを乗り越える瞬間,落ちていたドラム缶を投げつけてやったので,臨也は高所から飛び降りる際、バランスを崩して足を捻った。それだけの事だ。

俺もフェンスを乗り越える。臨也は必死に身体を起こして、不自由な足を引きずりながら這いずるように逃げだした。その背を蹴り飛ばして止める。うつ伏せに倒れた臨也の背中を踏みにじると,臨也は蛙のように呻いた。

「・・誰が、逃げていいっつった?」

臨也は首を捻って俺を振り返る。赤い目が俺を見た。俺と臨也はいつになっても飽きずにこんなことを繰り返しているのだ。俺だってこんなことしたくねえよ,でも臨也はこうでもしねえと一生自分のやってる事の意味わかんねえんだからしょうがねぇだろ。自分に言い聞かせるようにそう思う。

知っている。本当に静かに生きていきたいなら,臨也なんか放っておけばいいのだ。臨也はもう,俺に的を絞って暴力の種をまき散らしたりしない。高校時代,臨也は俺に色々なチームをけしかけて,それを楽しそうに笑いながら眺めていた。あいつにとって,それは娯楽だったのだ。動機はただの好奇心だったのだ。証拠に,俺の暴力が臨也にとって娯楽以外の意味を持つようになった時,臨也はあっさり俺から手を引き,住処までも変えた。


本当は,俺は,暴力が嫌いじゃない。あの時,俺は無抵抗な臨也を殴りながら楽しんでいた。もともとおかしな人間だった臨也をさらに暗い所へ押したのは俺の暴力だ。しかし,それでも,俺は力をふるう事が結構好きなのだ。

ナイフを握りしめて抵抗する臨也を笑いながら叩きのめす。

俺は臨也が好きだった。臨也を友達のように思っていた頃,俺は確かに幸せだった。それなら今の俺は不幸なのだろうか。少なくとも今,俺は臨也と分かりあっていた。反吐が出ると思いながら,かつて望んだ通りに臨也の本性を暴いて,臨也に俺の力を認めさせた。

「ナイフ刺さらないとか,本当シズちゃんは大した化け物だよ」

「謝っちまえよ。臨也ァ・・今ならまだ加減できんだからよぉ」

俺は言う。本音だった。しかし臨也は,プッと唾を吐いて,俺の腕にナイフを突き立てた。白いシャツにじわりと血が滲む。それが臨也の答えだった。