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欲しいもの、見たいもの

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どうしてこんなところにいるんだ、俺は。

「なにしてるの?あがりなよ」
玄関先で立ち止まっていると、先に家の中に入った臨也が入ってくるよう促した。多少の抵抗はあったものの、臨也の言葉に引かれるように、半ば恐る恐る足を踏み入れた。
広い家の中に人の気配はなかった。あまりきょろきょろと見回すのも失礼にあたると思い、ややうつむき加減に歩くけれど、家はとても綺麗にされているのが感じ取れる。
「今日から家族は旅行に行っているから遠慮しなくていいよ。明後日まで帰ってこない」
「家族って、両親か?」
「妹たちも」
「妹?手前に妹がいるのか?」
やや驚いた声を出すと、前を歩いていた臨也が振り返り、肩をすくめた。
「俺に妹がいたら変?双子だよ。まだ小学生なんだ。シズちゃんが俺をなんだと思っているのか知らないけどさ、俺だって木の股から生まれたわけじゃないんだよ」
そうは言われても、臨也と家族という単語はかけ離れていて、静雄にはうまく繋げることができない。木の股から生まれたのだと言われたほうが、よほど納得できる。
そんな静雄の心中を覗いたかのようなタイミングで、臨也が笑った。
「ま、シズちゃんは俺のことを人間だなんて思っていないようだけど」


「おまえって、寝るのかよ?」
新羅に用事があり教室で待っていたとき、同じく新羅を待っていた臨也と一緒になった。会話など持つつもりはなかった。ただふと疑問が頭に浮かんでしまい、無意識のうちに口が滑ってしまっていたのだ。
「なに、いきなり」
携帯から目を離さないまま臨也が言った。
「いや、手前が寝るところが想像できねえからよ」
言うと、臨也が顔を上げ、「なに言ってんの?」とほんのわずかに片眉を上げた。
「寝ない人間なんている?誰?見たことあるわけ?いないよね。なのに、どうしてそういう発想が出てくるのかほんと謎だよ。そりゃ俺だって寝るよ。人間なんだから」
最後の『人間なんだから』が、うそ臭く聞こえてしまうのはどうしてだろう。人並みはずれた力を持つ静雄に言われたくないだろうが、臨也は誰よりも人間ぽくない。あの新羅よりも。
「あっそ」
自分で訊いておきながら、それもそうだと納得する。寝ない人間などいない。本当にそれが人間なら。
「見る?」
「あ?」
なにを言っているんだと眉を顰めた静雄に、臨也が薄く笑った。
「俺が寝るところを見るかって訊いてるんだよ」


どうしてのこのことついて来てしまったんだ、と半ば沈んだ気分の中で考える。どうかしている。あの臨也について、あの臨也の部屋に来ている。それも臨也の寝顔を見るためだけに。
どう考えても、馬鹿だろ。
特に臨也の寝顔が見たいわけではなかったのに、ただ臨也が本当に寝るのかどうなのかを訊きたかっただけなのに、どうしてこんなところまで来たのだ。
「ここが俺の部屋。まさかシズちゃんを入れるとは思わなかったなあ」
静雄だって思っていなかった。まさか臨也の部屋に入るなど。
臨也の部屋は静雄の部屋よりも随分広く、通ってきた家の中よりもさらにさっぱりとしている印象を受けた。必要なもの以外が置いてない中、壁の一面を使った本棚だけが存在を主張していた。本棚には隙間なく本が埋められている。生きてきた16年の中で、ここにある本の数の20分の1の量も、静雄は読んでいない。
「壊さないでいてくれるなら、どこにでも適当に座っていていいよ」
言われるままに床に腰を下ろす。落ち着かない気持ちを抱えながら、これはやっぱり帰ったほうがいいのではないかと思い始める。
「……なにしてんだよ」
そわそわとした中で聞こえてきた布の音に顔を上げ、静雄は眉を寄せた。臨也が制服を脱いでいるところだった。
「なにって、着替え。見ればわかるでしょ。それともなに、シズちゃんは制服で寝るっていうの。無神経な君はそれでいいかもしれないけど、俺にはそんな趣味はないんだよ」
こめかみが小さく動く。どうして臨也はこう一言も二言も多いのだろう。その余分なものが静雄を苛立たせる。そしてそれをわかって言っているのだから性質が悪い。
静雄がむっとしている間にも、臨也はするすると着替えを進めていた。そしてその赤いシャツを脱いだ姿に、はっとした。
細い。
静雄もよく、力のわりに細いと言われるほうだけれど、臨也の細さはまたそれとは違うものだった。うまい言い方が見つからない。だけど肩から腰にかけての線は一瞬手を伸ばしたくなる衝動に駆られた。ふと、臨也の背中を凝視してしまっている自分に気づいてぱっと目を逸らす。
(馬鹿か、俺は。なに考えてんだ)
冷や汗が流れた。
触りたい?今、あの臨也に触りたいと思ったのか?なんで。
「なにやってんの?」
ふいに落ちた影に頭を上げれば、着替え終わった臨也が静雄の目の前に立っていた。
ゆるめのシャツに、ズボン。特別な格好じゃない。静雄が家で着るようなものとだいたい同じだ。なのになぜか、襟元から覗く首に喉が鳴った。細すぎる。生地の感じが余計にそう見せるのかもしれない。
(こいつ、こんなに細かったか?)
華奢、という感じとは違う。頼りなさげでもない。そうだとしたらはじめからそう思っているはずだ。でも細い。
自分とほぼ互角に渡り合える人間などいなかった。臨也がはじめてだ。だから自分の中で勝手に頑強なイメージを作り上げていたのかもしれない。現実とのギャップが大きすぎる。
「寝るから電気消していい」
「は?もう寝るのかよ?」
まだ七時を過ぎたばかりだ。寝るにはいくらなんでも早すぎるだろう。
「だってシズちゃんは俺の寝ているところを見たいんだよね。別に俺と語り合いたいことがあるわけでもないんでしょ」
「当たり前だろ」
臨也相手になにを語り合うことがある。将来の夢とかか?馬鹿らしい。
「じゃあ、俺がこれからすることはひとつしかないじゃないか」
言いながら臨也がベッドの中に潜り込む。電気が消えても、外はまだ完全な闇ではなく、顔は十分見ることができる。
だけど臨也はなかなか目を閉じようとしないで、逆に静雄を見つめてくるから、思わず目を逸らした。
「早く寝ろよ。目閉じろ」
「さっきはもう寝るのかって言ってたくせに」
「手前が寝るっつったんだろうが。さっさと寝ろ」
シズちゃんは勝手だなあ、と臨也が小さく笑った。
「でもさ、さっきから俺から目を逸らしてばかりだけど、そんなんで寝ているところを観察できるの」
「……!」
気づかれていたことに、小さく口の中だけで舌打ちをする。これだから嫌なのだ。自分の一挙手一投足をすべて知られているようで、迂闊な動きもできない。
「それとも、俺を正視できない理由があるとか?」
「ああ?あるわけねえだろ。いい加減寝ろよ。ごちゃごちゃうるせえんだよ」
いつまでも目を開けている臨也の目を手で塞ぐようにして、枕に頭を押し付けた。この目は苦手だ。じっと見られると、なにもかもを見透かされている気分になってくる。静雄自身が覗いたことのない部分までも見られているようで、落ち着かない。
手の下で柔らかい瞼が動くのがわかった。手をはずせば、またあの目が開きそうでどけられなかった。じんわりと、手のひらが温かくなってくる。
作品名:欲しいもの、見たいもの 作家名:きな山