多様性恋愛嗜好
「あなたが好きです」
とある日の放課後。女性陣が……というよりはハルヒが何やら女だけで買い物があるとかで長門と朝比奈さんを連れ立って部室を飛び出していった。その様子を呆れながら見送ったあと、目の前の男とチェスの勝負をつけ(勿論、俺が勝った)チェスの駒を二人で片付けている時にその言葉を耳に飛び込んできた。
穏やかな声とともに投げかけられた言葉。微かに頬を染め、はにかむように微笑んでみせた男の表情は普段の笑顔と比べると驚くほどに柔らかい。
その声の主……古泉一樹はアホ面を晒しているだろう俺を見て、「恋愛感情で、ですよ」と思い出したように付け加えた。
「……本気か?」
いきなり気色悪いことを言うなだとか、あるいは笑い飛ばすべきだったのかもしれないと思ったのは自分の口から言葉が転げ落ちた後だった。しかし、それをするには……古泉の表情があまりにも、その、あれだ。冗談を言ってるようには見えなかった。
「本気ですよ、勿論。もう一度言いましょうか? 僕はあなたが好きです。僕と付き合ってください。……さて、お返事をお聞かせ願えますか? イエスか、ノーか」
古泉の口調はいつもと変わらず滑りが良い。だがその内容はいつも以上にぶっ飛んでいた。イエスかノーか? そう問われれば俺の答えは決まっている。勿論ノーだ。理由なんて一言で説明できる。俺は男でこいつも男。お断りの理由としては充分だ。
「……悪いが、断る」
「そうですか」
どことなく気まずさを抱えて断りの言葉を述べたが、その返事に対して古泉は笑みを深くしただけだった。おい、ちょっと待て。俺は断ったんだぞ? お前とは付き合えないって。
「わかってますよ」
俺の言葉が古泉の耳に伝わる前に別の言葉に変化しただとかそんなことはないらしい。再度確かめても古泉はショックを受けた様子もない。その態度にもしやと疑念が浮かび上がってきた。
「……おい。もしかして、俺をからかっただけか?」
「まさか。そんな訳ないじゃないですか。……そうですね、あらかじめ予想をついてたんですよ。好きな相手のことですからね。あなたは僕を特別好いてはいないだろう、と。断られるのがわかっていたんです。ただ、僕が言いたかっただけで。むしろ、受け入れられたらどうしようかと思ってましたよ」
だから、気にしないでくださいと穏やかに続いた言葉に二の句が告げなくなる。気にするに決まってるだろ、馬鹿かこいつは。恥ずかしそうに頬を赤く染める古泉を見ていられなくて視線を横にずらす。……勿論、気色悪いからだ。それ以外の理由なんてない。ないったらない。
「あ、でも」と聞こえたその声につい視線を前に戻すと、
「覚悟してくださいね?」
始めて見るんじゃないかってくらいのとびっきりの笑顔とともに訳の分からない言葉を投げかけられた。
とある日の放課後。女性陣が……というよりはハルヒが何やら女だけで買い物があるとかで長門と朝比奈さんを連れ立って部室を飛び出していった。その様子を呆れながら見送ったあと、目の前の男とチェスの勝負をつけ(勿論、俺が勝った)チェスの駒を二人で片付けている時にその言葉を耳に飛び込んできた。
穏やかな声とともに投げかけられた言葉。微かに頬を染め、はにかむように微笑んでみせた男の表情は普段の笑顔と比べると驚くほどに柔らかい。
その声の主……古泉一樹はアホ面を晒しているだろう俺を見て、「恋愛感情で、ですよ」と思い出したように付け加えた。
「……本気か?」
いきなり気色悪いことを言うなだとか、あるいは笑い飛ばすべきだったのかもしれないと思ったのは自分の口から言葉が転げ落ちた後だった。しかし、それをするには……古泉の表情があまりにも、その、あれだ。冗談を言ってるようには見えなかった。
「本気ですよ、勿論。もう一度言いましょうか? 僕はあなたが好きです。僕と付き合ってください。……さて、お返事をお聞かせ願えますか? イエスか、ノーか」
古泉の口調はいつもと変わらず滑りが良い。だがその内容はいつも以上にぶっ飛んでいた。イエスかノーか? そう問われれば俺の答えは決まっている。勿論ノーだ。理由なんて一言で説明できる。俺は男でこいつも男。お断りの理由としては充分だ。
「……悪いが、断る」
「そうですか」
どことなく気まずさを抱えて断りの言葉を述べたが、その返事に対して古泉は笑みを深くしただけだった。おい、ちょっと待て。俺は断ったんだぞ? お前とは付き合えないって。
「わかってますよ」
俺の言葉が古泉の耳に伝わる前に別の言葉に変化しただとかそんなことはないらしい。再度確かめても古泉はショックを受けた様子もない。その態度にもしやと疑念が浮かび上がってきた。
「……おい。もしかして、俺をからかっただけか?」
「まさか。そんな訳ないじゃないですか。……そうですね、あらかじめ予想をついてたんですよ。好きな相手のことですからね。あなたは僕を特別好いてはいないだろう、と。断られるのがわかっていたんです。ただ、僕が言いたかっただけで。むしろ、受け入れられたらどうしようかと思ってましたよ」
だから、気にしないでくださいと穏やかに続いた言葉に二の句が告げなくなる。気にするに決まってるだろ、馬鹿かこいつは。恥ずかしそうに頬を赤く染める古泉を見ていられなくて視線を横にずらす。……勿論、気色悪いからだ。それ以外の理由なんてない。ないったらない。
「あ、でも」と聞こえたその声につい視線を前に戻すと、
「覚悟してくださいね?」
始めて見るんじゃないかってくらいのとびっきりの笑顔とともに訳の分からない言葉を投げかけられた。