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ドリーム・パーク/1~オープン戦編~

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ブルペンにて



「先発、キッドかよー」
「あいつどうなんだ? ルーキーだろ」
「ルーキーもルーキー、1年目だって。ったく、若手台頭にも程があるだろ」
「あんなわけかわんねえのが出てくるくらいなら、微妙でもフルボディのがマシだったよ」
「まったくだ」

 ニヤニヤと笑いながら、ローはセットポジションからの投球、ストライク。中継ぎで使うかもしれないと予告されてはいるが、もうほとんど調整は済んでいる。
「言われてるぞ、ユースタス屋」
「ざっ……けんな!」
 イーストスタジアムの壁は総じて薄い。ゆえに、ベンチ奥に設置されているはずのブルペンには、なぜか一塁ネット裏付近の観客の声が筒抜けである。先ほどから世間話やら野次やら下馬評やらが絶えず聞こえて、恐ろしいまでの安普請だ。
 キッドが投げた球は、ブルペンキャッチャー自体から大きく逸れて、派手な音を立ててネットにぶつかった。
 先ほど、ウグイス嬢によってスタメンが発表されたばかりである。キッドの名前もキャッチャーのウソップと併せて呼ばれた。そのときのどよめきに大いに落胆が混じっていたことは、否定しようのない事実だ。
「俺は勝つ。勝ってあいつらに実力を見せ付ける」
「アツいな」
 キッドは高校時代を海外で過ごしたそうで、ドラフト指名ではなく、トライアウトに合格して入団した選手だ。ローと同じく1年目のルーキー。もっとも、ドラフト2位で入団したローとキッドでは、下馬評には大きく差がある。
「オープン戦だぞ。あんまり気合入れすぎて、怪我なんてするなよ」
「するか! 開幕戦の先発も、この俺だ」
「欲張りだな、お前」
 もう一球、振りかぶるのは同時、ミットに届いたのには僅かに差があった。
 ローは速球派というわけではないが、球速はストレートで平均140台半ばと高めだ。しかし、キッドのそれとは訳が違う。キッドは、速球派も速球派。非公式ながらMAXで日本人記録タイの158を記録したこともあるというから驚きだ。球威もある。
「変化球の練習もしておけよ」
「うるせえな……ッ!」
 ガシャン。キャッチャーが腕を伸ばす必要もないほどだ。
「ハハ、クソボール」
 ただ、球速球威は申し分ないとしても、キッドには変化球、決め球が圧倒的に足りない。プロ入りしてから突貫工事で覚えたMFB(ムービング・ファストボール)も、このざまだ。今のは力みすぎていたのだとしても、前の登板ではあわや危険球という一幕もあった。MFBは要するにストレートの癖球のようなもので、変化するとは言えほとんどストレートと変わらない球速で飛んでくるのだから、バッターにはたまったものじゃないだろう。
「お前は、どう思ってるんだ。このチーム」
「何がッ」
「わざわざトライアウト受けてまで入団したわけがわからねえんだよ」
 パン、と、今度はストレート。ややキャッチャーのミットが動いたが、それでもストライクだ。
「……お前に言われたかねえよ。逆指名してまでこんなカスチームにどうして入りやがった」
「俺はメジャー志向だからな」
 ニヤ、と笑ってローも一球投げた。思わずブルペンキャッチャーが体勢を崩すほどのフォーク。
「食えねえ奴だ。そのフォークもそのためってか?」
「まあな」
 ローは左腕投手だが、フォークを投げる。プロの左腕投手でフォークを投げる選手は珍しいと何度か言われたが、そのたびにローは今と同じ答えを返してきた。メジャーであまり使われていないフォークは、武器になる。
 キッドがあきれたように息を吐くのが聞こえた。
「……ま、速球しか武器のないお前を取ってくれるのなんて、うちくらいかもな」
「あんだと!」
「おっと、喧嘩は罰金だぜ。ロロノア屋とグル眉屋はもう3回も取られたそうだ」
「……クッソ!」
 パァン!
 どうもこの男は、苛立つごとに球威が増すらしい。その分コントロールは乱れるが。
(愉しいチームだな……)
 ローの球は、まるで吸い込まれたかのようにぴたりとミットに収まった。