化かし上手
でも、私には坊の氣を脈で探りながらお手伝いをするっていう、今のままで充分。
何といっても、坊の頭の中へ声を響かせられるのは神使の特権ですからね」
そう言う己の笑みがほんの僅かに歪んでいる事を鍵は知っている。七代は廊下へ上がり、傲岸に口の端を吊り上げた。
「そう?
案外と欲の無いこと」
「神使ってなァそもそも、欲深いようなもんじゃありやせんよ、坊」
後を引くようにして笑みを残しながら七代が鍵に背を向ける。その背に、言い訳は聞かぬと書かれているような気がしたのは鍵の抱く思いの所為か。
「ま、お前の色々事情は知らんけど。
俺の方はいつでも大歓迎よ、両手広げて待ってるぜ。
どうやら足手まといにはぜんっぜんならないっぽいしな」
けれど子供は迎える掌を引きはしない。鍵が何を言おうと。何をしようと。笑ったままで。掌は白く発光し、その光の強さに鍵は眼を細めるしかない。
鍵でさえ。もしかしたらと思ってしまう。
時折、七代千馗なら全て成し得るのではないかと。光に晒されながら眩暈のように仄かな夢を垣間見る。
他でもないこの己が?
それは鍵にとって、大層愉快な事だ。あの問答無用の掌に己はもう既に捉えられてしまっているのかも知れないと思いながら、鍵はこっそりと笑った。
「…………全く、坊にはかないませんねえ。
ちっとは容赦してもらわないと」
本当にこれだから。
七代千馗を構わずにはおれないのだ。