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ゴールデンレトリーバー

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そう応える壇は欠伸さえして、七代の身体を解放する気配はまるで無い。それどころか、先刻よりも強く抱き締められているような。仕方無く、七代は背中に親友を張り付けたままプレイを続行する。

「まさか、…………寝てないよな?」

いつも物凄く疲れている時には壇を抱き枕にして眠ってしまうくせに、己の所業を一切無視して七代は後ろの方へ訊ねかけた。

「寝てねえよ、まだ」
「いずれは寝るつもりか!」

すぐ耳許で聞こえる壇の声は確かに緩んでいる。心配になって七代は、寄りかかられている己の肩を揺すった。

「おい、ちょっと…………
 壇きゅんもやる?対戦とか?」
「壇きゅん言うな。
 いいよ、ゲームはお前が思う存分やれば。俺はいい」

抱き締める壇の力は、相変わらずそのまま。つまり壇は。どうあっても、七代を離すつもりは無いらしかった。
テレビから聞こえる野太い掛け声と七代がボタンを押すカチカチという音だけが、壇の部屋にしばらく響く。

「………………お前、昼は食べたの?」

七代が声を掛けると、壇が肩口から顔を上げた。

「いいや……
 休みだから遅くに起きたし、そん時適当に食って、そのまま。
 あと食ったのは、さっきのお前のケーキくらいだな」
「あれひとくちだけだろ。
 もうすぐ一時になるけど、何か食いに行くか?
 お前のだいすきなカレーとかさ」

カレーが好きなのはお前も同じだろうと思いながら壇はそのまま首を振る。

「別にいい」

思わず七代は間近にある壇の方を見た。しかし首を捻ってみても七代には黒い髪の一部しか見る事は出来ない。

「、食わないって事か?」
「腹減ってねえし」
「病気か、お前」

そう言う七代の声が恐ろしそうな響きだったので壇は笑って、腕の中の身体を抱き締め直した。

「今はそういう気分じゃないんだ」

それは、先刻も聞いた台詞である。
そこで七代は、色々なものが突然腑に落ちた。
何故七代のノートを写さないのか。何故ゲームをしないのか。そして昼食さえ取ろうとしないのか。
この男は要するに。
今、自分と七代の間に、何ひとつとして余計なものを置きたくないのだと。
テレビ画面の中で白い胴着の男が、棒立ちになって静止したまま、初めて敗北した。始まるカウントの数字を見詰めながら、七代は頭を壇のそれへ凭れ掛ける。

「……………………別に連絡も何も寄越さなかったくせに」

七代が呟くと、壇は応える代わりに七代の身体を少しだけ撫でた。無事を確認するように。
何も言おうとしない男に七代は嘆息する。
この男の考えている事は相変わらず七代には計り知れないが、また何か独自の方向性によって悩んだ末の事なのかも知れない。この男なりの理由が恐らくあるのだろう。よく判らないなりに七代は、そういう事にして納得しておいてやった。

「寂しいならさあ…………、素直に、そう言ったら」

七代とて、ぼんやりと屋上で佇む壇にべったりと張りつく事が時折ある。そういう時、七代が己の行動理由を壇へ説明した事など一度も無いのに、七代はまた己を棚に上げている。そうか、七代は寂しかったから張りついていたのかと、壇は理解した。

「お前もやるだろ」

七代の肩に顔をくっつけている所為で壇の声はくぐもっている。

「俺はいいの」
「わがまま」
「それはよく知ってるだろ」

七代の笑った声が振動して、壇に伝わった。
七代の声と、体温、触れる感触。どれもが壇にはひどく、心地良い。

全てが終わって、学校が休みに入り、この男と顔を合わせなくなって。その事が壇に奇妙な空恐ろしさを感じさせた。
あれだけの事を成して、七代は果たして無事なのだろうか。本当に?
いつでもすぐに直接連絡出来る手段があるのに、何となくそれが壇には出来ず、そのまま日だけが経ってしまった。それが四日である。四日が経ち、相反する思考が壇の中でぶつかり合ってその結果、気が付けば七代へ四ツの文字を送っていた。

七代千馗は失われず、何も変わらず、己の傍に在る。
壇はその事実を、頬に触れる熱でもって実感した。温い熱をぎゅ、と音がするほど抱き締める。

「くるしい」

すぐに七代から抗議の声が上がったが、壇の知った事では無い。

「これ、気持ちいいな」

するりと頬をすりつける。しみじみとした壇の声音に七代は苦笑した。
これは何だか、とても大きな犬が鼻先を擦りつけてくる時のような。
懐いて離れようとしない犬の頭をとりあえず撫で、七代はコントローラを手放した。

「じゃあ、好きなだけそうしてろ」

懐いてくる犬には、どうしたって甘くなってしまうものだ。





作品名:ゴールデンレトリーバー 作家名:あや