玉砕だけのアイラブユー
蛇口から零れた水滴が、シンクに落ちる。
たったそれだけの音でも、この瞬間を邪魔するような気がして、臨也は眉を顰める事で整った顔を微かに歪めた。
「ねぇ、シズちゃん?」
ベッドに肘をつく形で、眠っている家主を愛しげに見つめていた臨也は、時計の針が何度か回る頃、ようやく口を開いた。
普段はただただ饒舌な男が、沈黙のまま眠る男を見つめ、何を思ったのか。
それを知る者は、この場にはいない。臨也だけが抱える想いを知るのは、本人だけなのだから。
愛しさを隠さない手のひらで、ゆっくりと男の頬を撫で上げる。
睡眠薬をいくつもブレンドした今夜は、事の他眠りが深いようだ。満足そうに笑った臨也は、昼に回収しておいた郵便物のうち問題の無いものをテーブルに置き、昨日持ち帰った洗濯物をタンスにしまい、また新しい洗濯物を回収する。携帯電話のメール送受信や、着信を調べた後、思い出したように冷蔵庫を食品で満たし、それから盗聴器の場所を確認する。何も問題が無い事に、また一つ綺麗な笑みを浮かべた男は、耳触りな水音の元を締め上げてから再びベッドの脇に戻ってくる。
耳が痛む程の沈黙、ときおり聞こえてくるのは、ただただ眠る男の安らかな寝息だけ。
「シズちゃん、大好き」
照れ屋な恋人は、こうでもしないと臨也に恋人らしい振る舞いを許してはくれない。
顔を見合わせる都度、瞳を怒りに染め、愛情にしてはやや過剰な言葉を吐く。
勿論臨也は、そんな彼の事を愛していた。
人類全体に降り注がれていた愛が、今は平和島静雄というただ一人に注がれているのだ。どんな彼の事も愛しかったし、愛す自信があった。
相変わらず眠り続ける男に、音を立ててキスを落とす。
同時に、取り出したナイフで、その頬を薄く撫でる。キスマークを付けても残らない恋人に、自分を残す唯一の手段。
愛しげに、愛しげに傷を付けた臨也は、その傷口に舌を這わせながら、うっそりと笑ってみせた。
狂気を含んだ笑みは、臨也の美しい顔に恐ろしい程良く似合う。
「オヤスミ、シズちゃん。起きたらまた、キスしてね?」
立ち上がった臨也は、先程までの己の行動に陶酔していた余韻を一切残さず
未練など一欠片も感じさせない足取りで部屋を後にした。最後にカチャン、と鍵を締め今夜の逢瀬は終わりを告げる。
朝日が昇れば、大好きな恋人は自分を追ってくるだろう。
逢えない間の寂しさを埋めるように、愛の言葉に溢れたメールを何度も何度も送りながら臨也は笑った。
「ああ、早く朝にならないかなぁ!」
カチカチと、手元も見ずに愛の言葉を綴りながら
携帯電話のバックライトに照らされる臨也の顔は、それはそれは、楽しそうで。
歪んだ愛に浸る事に、なんら躊躇を見せない顔だった。
愛に溺れる自分を愛す
(ねぇ、愛ってなんって面白いんだろうね!)
たったそれだけの音でも、この瞬間を邪魔するような気がして、臨也は眉を顰める事で整った顔を微かに歪めた。
「ねぇ、シズちゃん?」
ベッドに肘をつく形で、眠っている家主を愛しげに見つめていた臨也は、時計の針が何度か回る頃、ようやく口を開いた。
普段はただただ饒舌な男が、沈黙のまま眠る男を見つめ、何を思ったのか。
それを知る者は、この場にはいない。臨也だけが抱える想いを知るのは、本人だけなのだから。
愛しさを隠さない手のひらで、ゆっくりと男の頬を撫で上げる。
睡眠薬をいくつもブレンドした今夜は、事の他眠りが深いようだ。満足そうに笑った臨也は、昼に回収しておいた郵便物のうち問題の無いものをテーブルに置き、昨日持ち帰った洗濯物をタンスにしまい、また新しい洗濯物を回収する。携帯電話のメール送受信や、着信を調べた後、思い出したように冷蔵庫を食品で満たし、それから盗聴器の場所を確認する。何も問題が無い事に、また一つ綺麗な笑みを浮かべた男は、耳触りな水音の元を締め上げてから再びベッドの脇に戻ってくる。
耳が痛む程の沈黙、ときおり聞こえてくるのは、ただただ眠る男の安らかな寝息だけ。
「シズちゃん、大好き」
照れ屋な恋人は、こうでもしないと臨也に恋人らしい振る舞いを許してはくれない。
顔を見合わせる都度、瞳を怒りに染め、愛情にしてはやや過剰な言葉を吐く。
勿論臨也は、そんな彼の事を愛していた。
人類全体に降り注がれていた愛が、今は平和島静雄というただ一人に注がれているのだ。どんな彼の事も愛しかったし、愛す自信があった。
相変わらず眠り続ける男に、音を立ててキスを落とす。
同時に、取り出したナイフで、その頬を薄く撫でる。キスマークを付けても残らない恋人に、自分を残す唯一の手段。
愛しげに、愛しげに傷を付けた臨也は、その傷口に舌を這わせながら、うっそりと笑ってみせた。
狂気を含んだ笑みは、臨也の美しい顔に恐ろしい程良く似合う。
「オヤスミ、シズちゃん。起きたらまた、キスしてね?」
立ち上がった臨也は、先程までの己の行動に陶酔していた余韻を一切残さず
未練など一欠片も感じさせない足取りで部屋を後にした。最後にカチャン、と鍵を締め今夜の逢瀬は終わりを告げる。
朝日が昇れば、大好きな恋人は自分を追ってくるだろう。
逢えない間の寂しさを埋めるように、愛の言葉に溢れたメールを何度も何度も送りながら臨也は笑った。
「ああ、早く朝にならないかなぁ!」
カチカチと、手元も見ずに愛の言葉を綴りながら
携帯電話のバックライトに照らされる臨也の顔は、それはそれは、楽しそうで。
歪んだ愛に浸る事に、なんら躊躇を見せない顔だった。
愛に溺れる自分を愛す
(ねぇ、愛ってなんって面白いんだろうね!)
作品名:玉砕だけのアイラブユー 作家名:サキ