二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ひとりと、ひとつ

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
僕はタカ丸。ど派手なゴールドメタルのピカピカボディの最新機種の携帯電話だ。
僕の持ち主は久々知兵助くん。真面目で成績優秀な男の子だ。
僕みたいな派手な携帯電話は、やはり派手好きなタイプの人間が持ち主となることがほとんどで、正直、久々知くんみたいな保守的なタイプの人が持ち主となることは珍しい。でも、久々知くんは一緒にいた女の子(後でその子が久々知くんの恋人だとわかるのだけど)に、
「兵助、これがいいよ!これが一番かっこいい!!」
と僕を勧めたため、久々知くんは僕を購入し、彼は僕の持ち主となった。
正直、最初は戸惑った。
彼みたいな真面目な子が持ち主になるだなんて予想してなかったし、彼自身、自分の持ち物としては派手すぎる僕の扱いに、最初は戸惑っていたようだし。
でも、久々知くんの、メールの文章を考えるときの真面目な瞳、少し低めで優しい声なんかに徐々に僕は惹かれていって…気がついた時には、僕はすっかり彼に恋していた。
でも、僕の恋は決して叶うことはない。
彼には相思相愛の彼女がいる。
そしてなにより、彼は人間で、僕は彼の持ち物である、携帯電話にすぎないのだ。
僕のこの思いは、伝えることもできない。
でも、それでもかまわない。せめて命尽きるその時まで、彼と一緒にいることができたら…それが今の僕のなかでの、精一杯の望みなんだ。

***********

ブルルル、ブルルル…
僕は体を揺らし、メールの着信を知らせる。メールは彼の悪友である、鉢屋三郎くんからだ。
久々知くんが僕のボタンを押し、メールボックスを開こうとしたその時だった。
「こぉ〜ら!久々知!授業中に携帯電話をいじるんじゃない!!」
いかめしい顔をしたスーツ姿の先生が、僕に触れる久々知くんの姿を見て、怒鳴ってきた。
「あ、すみませ…」
僕のせいで久々知くんが怒られている…なんだかひどく心が痛んだ。
「罰として携帯は取り上げる。昼休みにでも、職員室にくるように!」
「…はい。」
あっ…と思う間もなく、僕は半ば無理やり久々知くんのもとから引きはがされ、気がつけば先生のそばに行くこととなった。
結局僕は、授業終了まで先生のそばにいることとなった。授業終了後、職員室まで連れて行かれたと思うと、そのまま先生の机の上に無造作に放り出されてしまった。
見慣れない景色に、見慣れない周りの人々…。
久々知くんからひきはがされ、一人になってしまった僕にとって、そんな周囲の様子は、ちょっとした恐怖だった。そんな周りの状況に押しつぶされそうになるあまり、ちゃんと彼のもとに帰れるのかどうか、そもそも彼はちゃんと僕を迎えに来てくれるのかどうか不安になってきた。
たった一人で、くるかどうかわからない彼の姿を待ち続ける時間は、いつもより何倍も流れが遅く感じた。

昼休み開始のチャイムが鳴ってからすぐ、職員室のドアをノックする音と、「失礼します!」という慌てたような声が聞こえてきた。
久々知くんだ。僕が彼の声を聞き間違えるはずがない。
「おお、来たか、久々知。…はは、そんなに慌てなくても。」
「さっきはすみませんでした、木下先生。」
彼は先生にむかって、深々と頭を下げる。やはりその姿を見ると少し心が痛んだけど、今はそれ以上に、再び彼に会えたことが嬉しくて仕方ない。
見ると、久々知くんの額にはうっすら汗がにじんでいるし、呼吸も少し荒い。僕を迎えにくるのに、ずいぶん慌ててきてくれたみたいだ。…まぁ、携帯電話がないと、単に不便だからだろうけど。それでも僕は、嬉しかった。
「今回のこと、ずいぶんお前らしくないが…しかたない、一回きりだぞ。」
「!ありがとうございます!」
再び久々知くんが頭を下げる。そして、先生の返事を聞いて、僕の心は踊った。帰れる、帰れるんだ!僕は再び、久々知くんの元に、帰れるんだ!
「それでは、失礼しました。」
久々知くんと一緒に、職員室を出る。すると廊下に、鉢屋くんが待ち構えていた。
「優等生の兵助くんが、職員室に呼び出しなんて珍しい〜!」
「うるさい、三郎。…だいたいお前が授業中にメールなんてするから…」
「あぁ、悪い。宿題写さしてもらおうと思ってさ。」
「お前なぁ〜…真面目にやりゃ、俺より頭いいくせに…。」
文句を言いつつも、久々知くんの声は弾んでいた。そんな彼の声に、僕の心もますます弾む。
僕は困ったように笑う久々知くんの顔を横眼で見つつ、彼のそばに入れる幸せを、再びかみしめていた。

*************

「だから、ねぇ兵助、…別れよう。」
たった一言の重みを、僕はその時、痛感することになる。

久々知くんに彼女から連絡があったのは久しぶりだった。
久々知くんと彼女は本当にラブラブだった。彼女からハートの絵文字がいっぱい付いたメールが届くのなんてしょっちゅうだったし、そのメールに、久々知くんは不器用な彼なりに、愛のこもった返事をしていた。おやすみ前の電話も日課だった。
僕はそんな彼らの姿を、ほほえましく思いつつも、どこか複雑な気持ちで眺めていた。僕は彼女に嫉妬していたのだ。僕がどんなに恋焦がれても、久々知くんは僕の方を振り向いてくれない。彼は彼女を愛してる。
だが、ここ最近、日課だったメールや電話のやり取りがなくなっていた。久々知くんはどこか悲しそうな顔をしつつ、僕を見ていたけれど、どんなに待っても、彼女からの連絡はこない。僕は落ち込んでいく久々知くんに、励ましのことばすらかけてあげることができない自分が、歯がゆくて仕方なかった。
そんな日が続いたある日、ついに彼女から電話がかかってきた。僕は嬉しかった。落ち込んでいく久々知くんを見続けたせいで、彼女に対する嫉妬心は消え失せていた。久々知くんには、彼女が必要なんだってわかったから。
僕はいつも以上に張り切って、着信を久々知くんに知らせた。
「久々知くん、電話だよ!ついにあの子から、電話がかかってきたよ!」
僕はしゃべることはできないから声にはならなかったけど、心の中で必死に叫んだ。
久々知くんは僕を手に取る。着信者の名前を見たとたん、彼の眼が喜びに輝くのがわかる。当然だろう。彼女からの連絡を彼がどれだけ待ち望んでいたか、ずっとそばにいた僕が一番知っている。久々知くんは慌てて僕の通話ボタンを押す。僕は彼女の声を伝える。
「久しぶりね、兵助。」
「あ、あぁ、久しぶりだな!」
久々知くんは必死で平静を保とうとしてるけど、その声にはやはり、喜びがにじんでいる。
「…実は私ね、あなたに伝えたいことがあって、電話したの。」
彼女の声は重かった。その声に、久々知くんの表情が硬くなるのがわかった。僕も思わず、緊張してきた。
「私ね…好きな人ができた。」
「!?」
彼女の言葉は、僕と兵助くんが全く予想しないものだった。思わず僕らは息をのむ。
「だから、ねぇ兵助、…別れよう。」

そのあとの兵助くんは見ていられなかった。
必死になんでもないようなふりをしつつ、彼女の別れ話を受け入れていた。でも、その眼には涙がにじんでいたし、彼はまだ彼女を愛していることは、僕ははっきり分かった。
彼女との会話が終わり、電話を切った後、久々知くんは声も出さずに、静かに泣いた。
僕はショックだった。
作品名:ひとりと、ひとつ 作家名:knt